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休日。
真白は入口の前で立ち止まった。
「……ここ?」
「ここ」
アレクシスがチケットを差し出す。
市立美術館。企画展。
外観は静かすぎて、少しだけ場違いな気がする。
「デートで来る場所?」
「たまには」
「静かすぎる」
「いいでしょ」
「悪くない」
入る。
受付を通る。
館内の空気が変わる。
音が吸われる感じ。
靴音が小さい。
「喋っていい?」
「小さくなら」
「小さく」
最初の展示室。
抽象画が並んでいる。
色と形だけ。
真白は一枚の前で止まった。
「……何これ」
「どう見える?」
「バグ画面」
「仕事脳」
「だって似てる」
アレクシスは少し笑う。
「俺は、夜の街に見える」
「夜の街」
「光が散ってる感じ」
「……あー」
少し離れて見る。
確かにそう見える。
「でもやっぱバグ」
「バグでもいい」
「いいの?」
「見えたものが正解」
隣の作品へ移動。
今度は人物画。
真白は少しだけ近づく。
描かれた視線がこちらを見ている。
「見られてる感じする」
「するね」
「落ち着かない」
「じゃあ離れる?」
「いや、もう少し」
しばらく無言。
真白は腕を組んで、じっと見る。
アレクシスは少し後ろから。
「何考えてる?」
「この人、眠そう」
「眠そう?」
「無理して起きてる顔」
「……真白っぽい」
「俺こんな顔してる?」
「たまに」
少しだけ肩を小突く。
静かに。
次の部屋へ。
インスタレーション。
光と音の展示。
暗い空間で、ゆっくり色が変わる。
床に光が落ちる。
真白はその中を歩いた。
足元に色がつく。
少しだけ楽しそう。
「これ好き」
「よかった」
「ゲームのステージみたい」
「やっぱり仕事脳」
「職業病」
中央で止まる。
光が青に変わる。
顔に色が乗る。
アレクシスが隣に立つ。
距離は近いが、触れない。
「デートっぽい?」
「……ちょっと」
「ちょっとか」
「でもいい」
出口に向かう頃、真白が言った。
「カフェある?」
「ある」
「行く」
「予想通り」
館内カフェ。
窓際の席。
コーヒーと、ケーキ一つ。
フォークは二本。
「結局食べる」
「美術館の後は甘いの」
「ルール?」
「俺の中の」
半分に分ける。
さっきより自然。
「今日、どう?」
「静かでいい」
「退屈じゃない?」
「退屈じゃない」
窓の外に光。
人が歩く。
普通の休日。
真白はコーヒーを飲んで、言った。
「また来てもいい」
「じゃあ次は別の展示」
「うん」
デートらしいことは少ない。
でも、隣にいる時間は長い。
それで十分だった。