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🌙月見🌿
174
休日。
真白は入口の前で立ち止まった。
「……ここ?」
「ここ」
アレクシスがチケットを差し出す。
市立美術館。企画展。
外観は静かすぎて、少しだけ場違いな気がする。
「デートで来る場所?」
「たまには」
「静かすぎる」
「いいでしょ」
「悪くない」
入る。
受付を通る。
館内の空気が変わる。
音が吸われる感じ。
靴音が小さい。
「喋っていい?」
「小さくなら」
「小さく」
最初の展示室。
抽象画が並んでいる。
色と形だけ。
真白は一枚の前で止まった。
「……何これ」
「どう見える?」
「バグ画面」
「仕事脳」
「だって似てる」
アレクシスは少し笑う。
「俺は、夜の街に見える」
「夜の街」
「光が散ってる感じ」
「……あー」
少し離れて見る。
確かにそう見える。
「でもやっぱバグ」
「バグでもいい」
「いいの?」
「見えたものが正解」
隣の作品へ移動。
今度は人物画。
真白は少しだけ近づく。
描かれた視線がこちらを見ている。
「見られてる感じする」
「するね」
「落ち着かない」
「じゃあ離れる?」
「いや、もう少し」
しばらく無言。
真白は腕を組んで、じっと見る。
アレクシスは少し後ろから。
「何考えてる?」
「この人、眠そう」
「眠そう?」
「無理して起きてる顔」
「……真白っぽい」
「俺こんな顔してる?」
「たまに」
少しだけ肩を小突く。
静かに。
次の部屋へ。
インスタレーション。
光と音の展示。
暗い空間で、ゆっくり色が変わる。
床に光が落ちる。
真白はその中を歩いた。
足元に色がつく。
少しだけ楽しそう。
「これ好き」
「よかった」
「ゲームのステージみたい」
「やっぱり仕事脳」
「職業病」
中央で止まる。
光が青に変わる。
顔に色が乗る。
アレクシスが隣に立つ。
距離は近いが、触れない。
「デートっぽい?」
「……ちょっと」
「ちょっとか」
「でもいい」
出口に向かう頃、真白が言った。
「カフェある?」
「ある」
「行く」
「予想通り」
館内カフェ。
窓際の席。
コーヒーと、ケーキ一つ。
フォークは二本。
「結局食べる」
「美術館の後は甘いの」
「ルール?」
「俺の中の」
半分に分ける。
さっきより自然。
「今日、どう?」
「静かでいい」
「退屈じゃない?」
「退屈じゃない」
窓の外に光。
人が歩く。
普通の休日。
真白はコーヒーを飲んで、言った。
「また来てもいい」
「じゃあ次は別の展示」
「うん」
デートらしいことは少ない。
でも、隣にいる時間は長い。
それで十分だった。
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