テラーノベル
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ただの暇人
駅の改札を出たところで、真白は立ち止まった。
スマホを見る。
電車が止まっている。
「……マジか」
少し遅れてアレクシスが来る。
「どうした?」
「線路点検。全部止まってる」
「帰れない?」
「帰れなくはないけど、だいぶ遠回り」
人が増えてきた。
改札前がざわつく。
真白は少しだけ顔をしかめた。
「混むな」
「外出る?」
「出る」
外に出ると、夜の空気が冷たい。
駅前のロータリーに人が溜まっている。
タクシー待ちの列も長い。
真白は息を吐いた。
「……だる」
珍しく素直な声。
アレクシスは少し考える。
「歩く?」
「どこまで」
「一駅先まで出れば動いてるかも」
「歩くか」
並んで歩き出す。
夜道。
特別な予定はなかった日。
しばらく無言。
足音だけ。
真白が先に口を開いた。
「今日、かなり詰まってて」
「仕事?」
「うん。締切前」
「大変そう」
「まあ」
信号で止まる。
赤い光。
「こういうときさ」
真白が言う。
「予定崩れるの、ちょっと嫌」
「分かる」
「でも、完全に嫌でもない」
アレクシスは横を見る。
真白は前を見たまま。
「なんで?」
「……帰るしかないから」
「うん」
「帰る方向、同じだし」
青になる。
歩き出す。
コンビニの明かりを通り過ぎる。
寄らない。
ただ歩く。
「足、大丈夫?」
「大丈夫」
「疲れてない?」
「疲れてる」
「じゃあ大丈夫じゃない」
「歩ける」
少しだけ距離が縮まる。
寒いからか、自然に。
しばらくして、真白が言った。
「……こういうのさ」
「うん」
「デートっぽい」
「電車止まってるだけだけど」
「それでも」
小さく笑う。
アレクシスも笑う。
一駅分歩く頃には、人も減っていた。
空が少し広く見える。
「まだ動いてないな」
「もう少し歩く?」
「歩くか」
再び歩く。
今度は少しゆっくり。
真白が手袋をしていないことに気づく。
指先が赤い。
「寒い?」
「まあ」
「これ」
ポケットから出した手袋を差し出す。
「いい」
「でも」
「片方だけ」
「片方?」
「半分貸して」
片方だけ受け取る。
右手だけ入れる。
「不便じゃない?」
「隣いるから平気」
少しの沈黙。
歩幅が揃う。
次の駅の明かりが見えてくる。
まだ動いていないかもしれない。
でも、もういい気がした。
「帰れそう?」
「どっちでもいい」
「どっちでも?」
「歩くのも悪くない」
真白は前を見たまま言った。
「予定外、嫌いじゃない」
「うん」
「一人だったら嫌だけど」
それだけ言って、歩く。
夜はまだ続く。
帰る方向は同じだった。
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