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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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翌朝、グルナラに呼ばれてサベリオが本屋の奥へ入ると、薄暗い棚のあいだでロヴィーサが脚立に乗っていた。高いところから古い箱を引き出し、胸もとまで紙埃をかぶっている。
「来た。ちょうどよかった」
ロヴィーサは箱を抱えたまま言った。
「資料室の整理、手を貸して。祭りの昔の記録を探したいの」
「昔の記録?」
「しずくシェルターが昔どんなふうに使われてたか、ちゃんと知りたいんだって」
グルナラが鍵束を鳴らした。
「地下の古い保管室、滅多に開けないから」
案内された奥の扉は、思った以上に重かった。鍵を回すと、湿った空気がゆっくり流れ出る。中には背の高い棚が並び、布で包まれた帳面や新聞の束が眠っていた。
「うわ」
サベリオは思わず声を漏らす。
「宝の山でしょ」
ロヴィーサは楽しそうに言い、すでに一番手前の束をほどき始めている。
最初に見つかったのは、何十年も前の避難者名簿だった。豪雨の日付、家族の人数、持ち出した物の数。短い文字が並んでいるだけなのに、その夜の慌ただしさがそのまま閉じ込められている気がした。
「しずくシェルターって、ほんとに避難所だったんだ」
サベリオがつぶやくと、グルナラがうなずく。
「昔の水害で、家を流された人が何日もここで暮らしたのよ。だから年配の人ほど、ここを軽く扱われるのを嫌う」
その言葉が、サベリオの胸に引っかかった。寄付の場で年配の支援者たちの顔が固い理由も、もしかしたらそこにつながっているのかもしれない。
さらに紙束をめくっていくと、古い新聞記事が出てきた。見出しの端が破れていたが、本文にはこうあった。
――満月の夜、地下大時計ふたたび鳴動。町では「深い時計」と呼ばれ、古くから不思議な言い伝えが残る。
「深い時計」
ロヴィーサがその言葉をゆっくり読んだ。
「これだ。前に聞いたことある?」
サベリオは喉が乾くのを感じた。聞いたことがあるどころではない。あの低い音は、毎回胸の底に沈んでいる。
「……音だけなら」
「音?」
「地下から、変な響きがする時がある」
ロヴィーサはますます目を輝かせた。紙に書かれた言葉と、いま目の前にいる人間の証言がつながったからだ。
「もっと調べよう」
彼女は箱を抱きしめる勢いで言った。
「シェルターのこと、まだぜんぶわかってない」
重いはずの空気が、少しだけ動き始めた気がした。祭りの準備の裏で、この場所そのものが何を覚えているのか。それを知ることが、死に戻りの輪郭にも近づくのかもしれない。
サベリオは棚のいちばん奥を見た。暗がりの先に、まだ開けられていない箱がいくつも眠っていた。