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ruruha
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きゆう
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📩 相談
高校2年・Mさん
友達が落ち込んでいたとき、話を聞いたんですけど、何もできませんでした。
その子は部活で大きな失敗をして、先輩にもきついことを言われていました。いつもなら明るい子なのに、その日はずっと黙っていて、帰り道に「もう部活に行きたくない」と言ったんです。
自分なりに話を聞いて、顧問に相談してみたらどうかとか、少し休んでもいいんじゃないかとか、いろいろ言いました。でも、その子は「そういうことじゃないんだよね」と言って、最後には「ごめん、変なこと言って」と笑いました。
そのとき、何て返せばよかったのか分かりませんでした。
次の日、その子はいつもどおり学校に来ました。だから、もう大丈夫なのかなと思っていたんですけど、あとから別の友達に「昨日、あの子かなり落ち込んでたらしいよ」と言われました。
自分も話を聞いていたのに、何も分かっていなかったんだと思いました。
今でも、あのときのことを思い出します。もっとちゃんと話を聞けばよかった。余計なことを言わなければよかった。別の言い方をしていたら、少しは楽にできたんじゃないかって。
それから、誰かに相談されると緊張するようになりました。また何もできなかったらどうしようと思うんです。
友達の悩みを全部解決できるわけじゃないことくらい、頭では分かっています。でも、分かっているのに、自分が何もできなかったことが許せません。
誰かが困っているとき、何もできなかった自分のことを、どうしたら許せるんでしょうか。
遥「……俺、こういうの、あとから何回も思い出すのは分かる気がする。あのとき別のことを言ってたらって、頭の中で何回もやり直すんだよな」
蓮司「やり直したところで、相手の反応まで都合よく変わるとは限らないけどな」
遥「そうなんだけど。分かってても、考えるのをやめられないんだと思う」
日下部「Mは、その友達に何かしてあげたかったんだろ」
遥「うん。たぶん、そうだと思う」
蓮司「で、できなかった自分が許せない。じゃあ、Mが思う『できた』って、具体的には何なんだ?」
遥「蓮司、それ、ちょっと答えにくくない?」
蓮司「答えにくいところを聞いてるんだよ。本人も分かってないまま、自分を責め続けてる可能性があるから」
日下部「……相手が少しでも楽になってくれたら、だったんじゃないか」
蓮司「それなら、楽になったかどうかはMだけじゃ決められないだろ」
日下部「そうだな」
蓮司「それに、友達が『そういうことじゃない』って言ったのも、Mが間違ったことをしたからとは限らない。本人も何を求めてるのか分からないときはあるし、答えがほしいんじゃなくて、ただ聞いてほしかったのかもしれない」
遥「でも、ただ聞いてほしかったんだとしても、Mは聞いてたんだよな。ちゃんと聞いてたのに、足りなかったと思っちゃうんだ」
日下部「話を聞くことと、相手の苦しさをなくすことは、同じじゃないからな」
遥「……それ、難しいな」
日下部「何が?」
遥「話を聞いてるときって、相手がつらそうだったら、何か言わなきゃって思わない? 何も言わずにいたら、ちゃんと聞いてないと思われる気がするし。何か言っても、違うって言われたら、今度は何が正解だったんだろうってなる」
日下部「なることはある」
蓮司「正解を探し始めると、相手の話を聞くより、自分が失敗しないことのほうが大事になってくるんだよな」
遥「……それは、ちょっと分かる」
蓮司「Mだって、最初から自分の評価を守ろうとしてたわけじゃないだろ。友達を楽にしてやりたくて、いろいろ考えた。でも、相手が楽にならなかった。そこで『自分は役に立たなかった』って結論にした。次からは同じ失敗をしたくなくて、相談されること自体が怖くなった」
日下部「助けたい気持ちが強いほど、うまくいかなかったときに自分の責任だと思いやすいんだろうな」
蓮司「ただ、それを続けてたら、相談されるたびに相手のためじゃなく、自分が失敗しないために必死になる。何を言えば正解か、どこまでやれば合格かって」
遥「それは嫌だな……。相談してるほうも、なんか気を遣いそう」
日下部「Mが相談されることを怖がるようになったのも、無理はないと思う。でも、友達の悩みを解決できなかったことと、友達を大切にしていなかったことは違う」
遥「その子のことを大事に思ってたから、今も気になるんだと思う。どうでもよかったら、そんなに何回も思い出さないだろうし」
蓮司「ただ、気にしてる時間の長さが、その子のためになってるとは限らないけどな」
遥「……うん」
蓮司「厳しく聞こえるかもしれないけど、Mが何度も自分を責めても、友達があの日どう感じてたかは分からないままだろ。分からない部分を、自分が悪かったって答えで埋めてるだけかもしれない」
日下部「それなら、今できることを考えたほうがいい。過去の自分に、正解を言わせようとするんじゃなくて」
遥「今できること?」
日下部「その友達と今も話せるなら、普通に話してみればいい。あの日のことを聞いてみてもいいし、無理に聞かなくてもいい。もしまた相談されたら、最初から答えを出そうとせずに、『今は聞いてほしい? それとも一緒に考えたい?』って聞く方法もある」
蓮司「それなら、少なくとも勝手に正解を決めて突っ走ることは減る」
遥「でも、相手が『分からない』って言ったら?」
日下部「そのときは、一緒に分からないままでいればいい」
遥「……それでいいのかな」
日下部「何でも解決できる人間じゃないと、誰かのそばにいられないわけじゃない」
その言葉に、遥は少しだけ視線を上げた。
遥「俺、誰かが困ってるとき、何もできないまま帰るのって、なんか怖いんだよな。あとから何かあったら、あのとき気づいてたのにって思いそうで」
蓮司「気づいてたのに何もしなかったことと、気づいて何かしようとしたけど、相手が求める結果にならなかったことは違うだろ。今回のMは、少なくとも話を聞いて、考えて、言葉を返してる」
遥「……そうだな」
日下部「ただ、気づいたことがあるなら、次に生かせばいい。今回のことを全部失敗にしたら、Mが考えたことまで捨てることになる」
蓮司「失敗から学べって、よく言うけどさ。学ぶために、ずっと自分を罰し続ける必要はないんだよ」
遥「……友達が次に落ち込んでたら、どうする?」
日下部「まず、いつもと違うことに気づいたなら、声をかける。話したくなさそうなら無理に聞かない。話してくれたら、すぐ答えを出そうとせずに聞く。自分だけじゃどうにもならないことなら、ほかの人にも相談する」
蓮司「それで何も変わらなかったとしても、最初から全部おまえの責任だったことにはならない。相手の人生まで、一人で引き受けられるわけじゃないからな」
遥「……でも、もし本当に何もできなかったら?」
日下部「何もできなかったときに、自分まで駄目だと決めるな。次に同じことがあったら、別の方法を考えればいい」
遥「日下部って、そういうとき、何もできなかった自分のこと、気にならない?」
日下部「……気にはなる」
蓮司「ずいぶん即答だな」
日下部「気になるものは気になるだろ。助けられなかったことが、あとから頭に残ることだってある」
遥「それでも、次に進める?」
日下部「進まないと、次にできることまでなくなるからな」
蓮司「それ、ずいぶん自分に厳しい理屈だな」
日下部「そうか?」
蓮司「自分が止まってたら、誰も助けられないってことだろ。休むのも立ち止まるのも、全部あと回しにする理由になる」
日下部「……今はMの相談だろ」
蓮司「そうだな。話を戻すか」
遥「戻すんだ……」
蓮司「何だよ」
遥「いや、別に」
日下部「Mが今もその日のことを引きずってるなら、一度、自分が実際にしたことを書き出してみてもいいと思う。話を聞いた。相手の言葉を受け止めようとした。考えて返事をした。そのうえで、相手がどう感じたかは全部分からなかった。分かっている事実は、そのくらいだろ」
蓮司「その先に『だから自分は役立たずだ』って書くなら、それは事実じゃなくて、Mが自分に下した判定だ」
遥「自分のことになると、判定を事実だと思っちゃうんだろうな」
日下部「そういうときは、判定を急がないほうがいい。あの日の自分に、今の自分が求めるほどの答えを出せたかどうかなんて、簡単には決められない」
遥「……友達が、あのとき本当は何を言ってほしかったのか、今でも分からないんだよな」
蓮司「本人に聞かない限り、分からないかもしれない。聞いても、本人が覚えてないことだってある」
遥「そっか」
日下部「それでも、あの日Mが話を聞いたことまで、なかったことにはならない」
遥「……うん」
遥は相談文をもう一度見た。
「もっと何かできたはずだ」という言葉が、何度も書かれている。
何ができたはずなのかは、どこにも書かれていなかった。
ただ、何もできなかった自分だけが、ずっと責められていた。
遥「……Mは、友達を助けられなかったことを忘れたいんじゃなくて、あのときの自分を許せないのかもしれないな」
日下部「そうかもしれない」
遥「でも、あのときの自分も、どうしたらいいか分からなかったんだよな。今になってなら、いろいろ考えられるけど」
蓮司「時間が経ってから考えられることを、当時の自分が全部分かってたはずだと思うのは、なかなか無茶な話だな」
日下部「Mが今できるのは、次に誰かが困っていたとき、今回考えたことを使うことだと思う。あの日の自分を責めることだけが、友達を大切にする方法じゃない」
遥「……そうだな」
🗝 三人からのことば
遥「何もできなかったって思うくらい、その人のことを考えてたんだと思う。でも、うまくできなかった日の自分を、ずっと悪い人みたいに扱わなくてもいいんじゃないかな。あのとき分からなかったことを、今から少しずつ知っていけばいいと思う」
蓮司「相手が楽にならなかったからって、おまえの行動が全部間違いだったとは限らない。結果を変えられなかったことまで、自分の失敗として回収するなよ。次に何をするか考えるのと、過去の自分を延々と裁くのは、別の作業だからな」
日下部「誰かを助けたいなら、自分一人で何とかしようとしないことも覚えておいたほうがいい。話を聞くことも、ほかの人につなぐことも、できることの一つだ。何も解決できなかった日があっても、それで次に誰かと向き合う資格までなくなるわけじゃない」
相談室を出たあと、日下部は廊下の窓から校庭を見下ろした。
部活を終えた生徒たちが、互いの荷物を持ったり、ふざけながら肩を押し合ったりしている。
「日下部、今日このあと空いてる?」
通りかかったクラスメイトに声をかけられ、日下部は振り返った。
「どうした?」
「ちょっと相談したいことがあって。たいした話じゃないんだけど」
「分かった。どこで話す?」
相手がほっとしたように笑った。
日下部も、いつもどおりに頷いた。
相談を受けること自体は、嫌いじゃない。相手が困っているなら、できることを探したいと思う。
ただ、相手が話し終えたあと、自分にできることが何も残っていなかったら。
そのとき、自分は何をしていればいいのだろう。
日下部は、答えが浮かばないまま相手の隣を歩き出した。
「で、何があった?」
声は、いつもと変わらなかった。
コメント
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第37話、すごく刺さりました……。 「助けられなかった自分」をずっと責め続けるMさんの気持ち、切なくて。特に「話を聞くことと苦しさをなくすことは同じじゃない」っていう日下部くんの言葉、重くて優しかったです。蓮司くんの「失敗から学ぶためにずっと自分を罰し続ける必要はない」にも救われる思い。最後の日下部くんがまた相談を受けるシーン、彼自身も答えが出ないまま隣を歩くところがリアルで、余韻が残りました。良い話をありがとうございます🕯️