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きゆう
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中学1年・Kさん
クラスで、誰かが嫌なことを言われているとき、見て見ぬふりをするのが嫌です。
この前、クラスの男子が、あまり人と話さない女子のことを「暗いし、いてもいなくても変わらない」と笑っていました。周りも笑っていて、本人は聞こえていないふりをしていました。
私は、そういう言い方はよくないと思ったので、「本人がいるところで言うことじゃないでしょ」と言いました。
そしたら男子に「何、正義の味方?」「そういうところが面倒くさいんだよ」と言われました。周りも笑っていて、止めたはずなのに、私のほうが空気を悪くしたみたいになりました。
そのあと、女子に話しかけようと思ったんですけど、何を言えばいいのか分からなくて、結局何も言えませんでした。
数日後、男子たちが私のことを「いちいち口を出す奴」と言っているのを聞きました。直接言われたわけじゃないけど、たぶん私のことです。
それから、何か嫌なことがあっても、前より口を出せなくなりました。
正しいと思うことを言ったのに、嫌われると、自分のほうが間違っていた気がしてきます。
本当に相手のために言ったのか、それとも自分が正しい人間だと思いたかっただけなのか、自分でも分からなくなりました。
誰かを守ろうとしたことで、自分が嫌われるのが怖いです。でも、黙っていたら、それはそれで自分が嫌になります。
こういうとき、どう考えればいいんでしょうか。
蓮司「これ、止めたあとが面倒なんだよな。止める前は自分の中で答えが決まってるのに、止めたら周りの反応まで返ってくる」
遥「……言ったことより、言ったあとのほうが残るのかもしれない。正しいと思って言ったのに、周りから変な目で見られたら、自分の考えまで変だったのかなって思うし」
日下部「でも、男子の言い方は明らかに相手を傷つけるものだった。そこは変わらないだろ」
蓮司「そうだな。ただ、Kが本当に怖がってるのは、その男子に嫌われたことだけじゃない気がする」
遥「どういうこと?」
蓮司「自分が正しいと思っていた行動を、周りから否定されたことだよ。自分の判断に自信がなくなってる。だから、あの女子のためだったのか、自分がいい人でいたかっただけなのかって、動機まで疑い始めてる」
日下部「実際、いい人だと思われたかった気持ちが少しあったとしても、それで止めたことが間違いになるわけじゃない」
遥「……そうなのかな」
日下部「人の動機なんて、一つだけじゃないだろ。嫌な言い方を聞きたくなかった。女子が傷つくと思った。自分がそういう場面を見過ごすのが嫌だった。いろいろあったかもしれない。全部きれいな気持ちじゃなかったら、行動する資格がないなんてことはない」
蓮司「むしろ、自分の中に少しでもいい人でいたい気持ちがあったら駄目って考え始めたら、何もできなくなるだろうな。人間、そんなに動機を検査してから動いてないし」
遥「俺、あとから自分の言い方を何回も考えることはある。あんな言い方しなければよかったとか、もっと違う言葉なら、相手も嫌な思いをしなかったかもしれないとか」
蓮司「今回は、Kの言い方が悪かったから男子が嫌な反応をしたのか?」
遥「……それは、分からない」
蓮司「分からないよな。だって、相手が何を言われても反発するつもりだった可能性もある。Kが丁寧に言ったら素直に聞いたのか、それも分からない。なのに、周りが笑ったっていう結果だけ見て、自分の言葉が間違いだったと決めてる」
日下部「言い方を振り返ること自体は悪くない。次に同じような場面があったとき、もう少し伝わりやすい言い方を考えることはできる。でも、相手が反発したからといって、言うべきじゃなかったことにはならない」
遥「……その女子は、どう思ってたんだろう」
日下部「そこは本人にしか分からない。Kが止めたことで安心したかもしれないし、注目されたくなくて、かえって居心地が悪かった可能性もある」
遥「そっか……」
蓮司「だから、止めたことを理由に、勝手に『あの子を救えた』って思い込むのも違うし、男子に嫌われたから『余計なことをした』って決めつけるのも違うんだよ。Kがしたのは、あの場で嫌な言い方を止めようとしたこと。それ以上の結果まで、今の時点で決めなくていい」
遥「でも、何も言わなかったら、その子がずっと笑われてたかもしれないんだよな」
日下部「そうだな。だから、言ったことには意味があった可能性がある。ただし、Kが全部背負う必要もない」
蓮司「そこで一つ聞きたいんだけどさ。Kは、男子たちに嫌われるのが怖いのか。それとも、嫌われたことで、自分が間違ってる人間に見えてくるのが怖いのか」
遥「……どっちもありそう」
蓮司「だろうな。クラスで浮きたくないのは普通だし、自分の判断を信じられなくなるのもきつい。でも、周りからの評価を、自分の判断が正しかったかどうかの採点表にしてると、声の大きい奴に全部決められるぞ」
日下部「周りが何人同じことを言っていても、それだけで正しいとは限らない。逆に、自分が一人だから必ず正しいわけでもない。人数じゃなくて、何が起きて、何を言ったのかを見直せばいい」
遥「……でも、一人になるのは嫌だよな」
蓮司「そりゃ嫌だろ。誰だって、わざわざ自分だけ嫌われる役をやりたいわけじゃない」
遥「俺なら、次に同じことがあったとき、また言えるか分からない。言ったらまた何か言われるかもしれないし。黙ってたら、あとからずっと気になるかもしれないし」
日下部「毎回、同じ方法で止めなくてもいい。直接言い返す以外にも、本人にあとで声をかける、先生に伝える、周りに協力を求める方法はある。状況によっては、その場で一人で対抗しないほうがいいこともある」
蓮司「大事なのは、毎回その場で格好よく言い返せる人間になることじゃない。何が起きてるかを見て、どう動くか考えることだろ」
遥「……正しいことを言うって、思ってたより難しいんだな」
蓮司「正しいことを言えば、周りも納得して拍手してくれる。そんな場面ばかりなら簡単だろうけどな」
日下部「実際には、正しいことを言っても、相手が反省するとは限らない。周りが味方してくれるとも限らない。それでも言うのか、別の方法を取るのか、考えなきゃいけない場面はある」
遥「じゃあ、Kが男子たちに嫌われたのは、仕方ないことなのかな」
蓮司「仕方ないっていうか、Kが全部操作できることじゃない。誰かの嫌がることを止めたら、止められた側が不機嫌になることはある。それを避けるために、何も言わない選択をする人もいる。どっちを選ぶかには、それぞれ事情があるだろ」
日下部「ただ、Kが自分を嫌いになるほど、男子たちの機嫌を優先する必要はないと思う」
遥「……自分が嫌になるほど?」
日下部「言ったことを後悔して、次から何も言えなくなって、それでも黙った自分を責めるんだろ。周りに嫌われないようにした結果、自分が自分を許せなくなるなら、そこも考えたほうがいい」
遥「それは……きついな」
蓮司「Kは今、男子たちからどう見られてるかを気にしてる。でも、その女子がどう扱われるかも気にしてたはずだろ。どっちも大事にしたいなら、簡単な答えなんか出ないよ。誰にも嫌われず、誰も傷つかず、全部うまくいく方法を探し続けたら、動けなくなる」
遥「……じゃあ、嫌われても気にしない人になればいいの?」
蓮司「いや。気にするだろ、普通に。嫌われても平気な人間になる必要はない。嫌われるのが怖いままでも、何を大切にするか考えることはできる」
日下部「怖くなくなるまで待っていたら、動けないままのこともあるからな。怖いと思いながら選ぶこともある」
遥「……そっか」
蓮司「それと、その女子に今から声をかけるなら、無理に『大丈夫だった?』って聞かなくてもいいんじゃないか。普通に話しかけてもいいし、あのときのことを気にしてるなら、『この前、あんなこと言われてたから気になってた』って伝えてもいい。相手がどう返すかは、相手に任せればいい」
日下部「助ける側が、相手の反応まで決めることはできないからな」
遥「……Kが声をかけたら、相手も気を遣って『大丈夫』って言うかもしれない」
日下部「そうかもしれない。だから、返事がどうであっても、すぐに自分の行動の採点に使わないことだと思う」
蓮司「『ありがとう』って言われたら正解で、何も言われなかったら間違い。そういう判定を始めたら、今度は相手に、自分が安心するための反応を求めることになる」
遥「……ああ、それは嫌だな。助けたんだから感謝してほしい、みたいになったら」
蓮司「そう。Kがそういう人間だって言ってるわけじゃない。ただ、自分の正しさを確かめたくなると、相手の反応を使いたくなることはあるからな」
日下部「だからこそ、自分が何を見て、何を考えて、どう行動したのかを振り返る。相手の反応だけで決めない。それでいいと思う」
遥「……俺、嫌われたら、自分が悪いことをしたんだと思いやすいかもしれない」
蓮司「嫌われた理由が自分にある場合もあるだろうけど、嫌われたという事実だけでは、何が悪かったのかまでは分からないからな」
遥「うん……」
日下部「Kが次にどうするかは、今回の男子たちの評価だけで決めなくていい。今回のことを考えたうえで、次はどうしたいかを自分で選べばいい」
遥「……次も、同じようなことがあったら?」
日下部「その場の状況を見て考える。直接止めるのか、あとから声をかけるのか、先生に伝えるのか。どの方法を選んでも、考えたうえで動いたなら、それでいい」
蓮司「毎回、誰からも嫌われない正解を選ぼうとするなよ。そんな問題、そもそも答えが用意されてないこともあるんだから」
遥は相談文の最後をもう一度読んだ。
「自分が嫌になります」
誰かを守ろうとして、嫌われるのが怖い。
黙っていたら、黙った自分を嫌いになる。
どちらを選んでも、自分を責める理由を見つけてしまう。
遥「……Kは、何を選んでも、自分が悪かったことにしそうだな」
日下部「そうかもしれない。でも、何かを選ぶたびに、自分を悪者にしなくてもいい」
蓮司「自分の判断を振り返ることと、自分を嫌いになることをセットにしないほうがいいな。反省するところがあれば直せばいい。それで終わらせてもいい話まで、人格の問題に広げなくていい」
遥「……難しいけど、そうできたら少し楽なのかもしれない」
日下部「最初からうまくできなくてもいい。次に考える材料が一つ増えた。それくらいからでいいと思う」
🗝 三人からのことば
遥「嫌われるのは怖いと思う。俺だって、自分の言ったことを何度も考えて、間違ってたのかなって思うことがある。でも、誰かが笑っていたからって、その人が正しいとは限らない。自分が何を見て、何を嫌だと思ったのかまで、周りの反応に渡さなくてもいいと思う」
蓮司「自分の行動を振り返るのはいい。でも、嫌われたことを証拠にして、自分の判断も動機も全部疑い始めたら、他人の機嫌で自分の考えを決めることになる。嫌われるのが平気になる必要はない。怖くても、自分が何を大事にしたいかくらいは、自分で決めろよ」
日下部「正しいと思ったことをしたあと、うまくいかなかったなら、次にどうするかを考えればいい。必要なら方法を変える。誰かに助けを求めることもできる。ただ、周りから嫌われたという理由だけで、自分が間違っていたと決めるのは早い。何が起きたのかを、ちゃんと見て判断してほしい」
コメント
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第38話、めちゃくちゃ沁みた…😢 Kさんの「正しいと思って言ったのに嫌われると、自分の方が間違ってた気がする」って感覚、すごく分かるよ。私も昔同じことあったなあ。 蓮司くんの「嫌われたことを証拠にして自分の判断も動機も全部疑い始めたら、他人の機嫌で自分の考えを決めることになる」って言葉が刺さった。 遥くんが「正しいことを言うって思ってたより難しい」って言うのもリアルすぎる😭 でも、動機がきれいじゃなくても行動することに意味はあるって日下部くんが言ってくれて、ちょっと救われた気がした。 何を選んでも自分を責めるKさんに「それでいいと思う」って優しく寄り添う三人の距離感が素敵だったよ!📖💕