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冷たい床に押さえつけられて、遥は必死に耐えていた。笑い声、押し殺した囁き、携帯のシャッター音——すべてが耳に突き刺さる。


「おい、見ろよ……震えてるくせに」


「声、漏れてんじゃん。気持ちいいんだろ?」


違う。違うんだ。

遥は奥歯を噛み締めて首を振る。けれど、誰かの指が、手が、強引に身体を弄んでくる。理性では「嫌だ」と叫んでいるのに、皮膚が、筋肉が勝手に反応してしまう。


「……っ、ちが……!」


「は? 今、声出たぞ」


「なに否定してんの。体は正直じゃん」


喉の奥から漏れたのは、押し殺したはずの声だった。遥の顔が一瞬で熱くなる。羞恥で、怒りで、自己嫌悪で。


——何やってんだ俺。なんで、こんなときに。


「やっぱり好きなんだよな? なあ、素直になれよ」


「嫌だって言いながら、腰動いてるぞ?」


「気持ちいいんだろ? 犬みたいに」


「ち、違うって……違うんだよ……!」


遥は喉を枯らすほどの声で必死に否定する。涙がにじんで視界が揺れる。

けれどその声も、嗤いの渦に呑み込まれるだけだ。


「ほら、見ろよ。この反応。もう立派な娼婦じゃん」


「やべぇ、これ動画に撮っといた方がいいんじゃね?」


「“嫌がってるフリして実は気持ちいいやつ”ってやつだな」


——違う。違う。違う。


頭の中で何度も叫ぶ。けれどそのたびに、自分の中の感覚が裏切る。

冷たい床と、乱暴な手の感触と、どうしようもなく走る電流。


「……やめろ、やめろって……!」


「なにが? 気持ちいいのに?」


「お前さ、もう戻れないんじゃね?」


遥の心臓が痛いくらいに脈打つ。

「戻れない」という言葉が頭にこびりつく。


——そうだ、俺はもう壊れてるんだ。汚れて、どうしようもない。誰にもまともに見てもらえない。


「ほら、また声出た。な? やっぱり好きなんだろ?」


「“気持ちいいです”って言えよ。楽になれるぞ?」


遥は首を振り続ける。喉の奥から漏れる声は、否定の言葉と嗤われる音が混ざり合い、ぐちゃぐちゃになっていく。

心の奥でただひとつ、「違う、違う、違う」と繰り返しながら。



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