テラーノベル
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教室を出ると、廊下の蛍光灯が淡く揺れていた。誰も声をかけてこない。いや、かけてくる人間がいたとしても、それは「お前を見下すための言葉」だと分かっている。
肩を落とし、重い足取りで階段を降りる。靴底の感触が、心の沈みと同じ速度で階段に吸い込まれていく。
「……なんで、いつもこうなんだ」
小さな声で自分に問いかける。
答えは出ない。出るはずもない。幼いころから、誰かを信じれば裏切られ、顔を上げれば叩かれた記憶しか残っていないのだから。
帰り道、街灯が淡く地面を照らす。
一歩一歩、影が揺れる。胸の奥が締め付けられるように痛む。
昨日の夜、そして今日の教室で、身体も心も踏みにじられた。あざや傷、擦り切れた服、うずく身体。
誰かに触れられるたび、思わず身をすくめる自分がいる。
「……もう、どうすればいいんだ」
声にならない声が、夜の風に溶けていく。
背後で笑い声が聞こえるような錯覚に体が震える。
誰もいないはずなのに、幼い頃の兄や姉の怒声、クラスメイトの嘲笑、教師の冷たい目線が重なる。
息が詰まりそうになる。
「俺は……生きてる意味あるのか?」
そんな言葉も、口にすることはできない。叫べば、また誰かの愉悦になるだけだ。
だから、歩きながらも、できるだけ目立たないように、影に溶けるように、細い声を飲み込む。
帰宅すると、玄関の扉を閉める瞬間だけ、ほんの少しだけ力が抜ける。
けれど、そこにも安らぎはない。幼い頃からの虐待が、母や兄弟の目線の記憶として身体に刻まれている。
「……もう、全部どうでもいい」
膝を抱えて床に座る。
涙がぽつり、と落ちる。小さな音も、誰も聞かない。
それでも、身体の痛みと羞恥、心の底にある恐怖が重なり、涙を止めることはできない。
遥は自分がどう思われているかを知っている。
「人間としてじゃない、ただの玩具、踏みつけるもの」
その言葉が心に何度も反響する。
言いたいことはある。でも口を開けば、また傷つけられるだけ。だから黙る。
自分の心が割れるのを、ただじっと耐えるしかない。
孤独。痛み。恐怖。絶望。
全てが重なった夜道で、遥は小さく、ひとりごとを呟く。
「……生きてていいのか、俺」
答えは風に流される。
だが、この問いは消えることなく、明日も、明後日も、ずっと遥の中に残る。
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