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放課後の空き教室。椅子の背にもたれた数人が、遥を囲んでいた。
「なあ、次は日下部の番だよな?」
「前の“過去テーマ”であんま楽しませてもらえなかったし」
「アイツの声も聞いてみたいなぁ」
笑い混じりの言葉が投げられる。
その名前が出た瞬間、遥の背筋が凍った。
「……やめてくれ」
気づいたら、膝を折っていた。
床に手をつき、顔を上げることさえできない。
「俺がやるから。俺に、全部やらせろ。だから、日下部には……頼むから」
声が震え、舌がもつれる。
唇の端が切れているのも、もうどうでもよかった。
「おお……出た出た。情けねぇお願い」
「本気で言ってんの? カッコつけのくせに土下座? うける」
笑い声が弾ける。
誰かがスマホを構えて写真を撮った。
「記念に保存しとこ。アイツの前で見せたらどうなるかなぁ」
遥の胃がねじ切れるように痛んだ。
けれど、それでも、頭を下げ続ける。
「なんでもする。どんなことでも……やるから」
「日下部にだけは、手を出すな」
しばし沈黙。
そして、椅子の脚が床を鳴らす。
「──じゃあ、やってもらおっか」
遥の肩を乱暴に掴み、机に押しつける。
嘲るように耳元で囁かれる。
「でもさ、お前が必死に守ろうとすればするほど、あいつをネタにするの面白いんだよな」
振り返ることすら許されない。
背筋に冷たい笑い声が刺さっていく。
そして翌日。
日下部は「ターゲット」の一人としてまた名を呼ばれた。
クラスの中心で、遥の目の前で。
遥の喉が焼ける。
昨日の懇願は、ただの余興として笑い話にされただけだった。
(……守れなかった)
(いや、俺が守ろうとしたこと自体が、逆に“武器”になったんだ)
心の奥で、ずっと噛み殺していた声が砕けた。