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黒板の上に今日のテーマが書かれていた。
「今日のテーマ:秘密」
「もう殴られただの閉じ込められただのは聞き飽きたな」
「そうそう。もっと、俺らがゾクッとするやつが聞きたいんだよ」
その場にいる全員が、視線を遥に集中させる。
机の角に爪を立てながら、彼は呼吸を整えようとした。嫌な予感が胸を圧迫する。
「なあ、隠してんだろ。誰にも言えない“えぐい思い出”」
「出せよ、ここで。言わなきゃ……日下部、呼んで試してみるか?」
――まただ。
名前を盾にされた瞬間、背筋が冷たくなる。
「……な、にも……」
声が震える。すぐに誰かが机を叩いた。
「嘘つくな! あんだけ地獄みたいな家なら、もっとあるだろ? 体、触られたとかさ」
「……っ」
一斉に笑いが起きる。笑いながら、目だけが鋭く追い詰めてくる。
「ほら、言えよ。日下部のズボン下ろして実演してみるか?」
「やめろっ……!」
「じゃあ喋れ。具体的に。映像が浮かぶくらい細かくな」
喉の奥で吐き気がせり上がる。
だが拒否はできない。拒否すれば、次は日下部に向かう。
「……小さい頃……沙耶香に、言われて……」
声は自分のものではないように小さく震えていた。
「誰だよ沙耶香って」
「……姉……みたいな……」
「へえ! いいね! 続けろ」
笑い声の圧で、さらに背中を押される。
「……寝てるとき、布団めくられて……触られた……」
「どこを?」
「……胸……腹……下……」
空気がざわつく。誰かが口笛を吹く。
「抵抗したのか?」
「……した。けど……笑われて……強く、押さえつけられて……」
「どうされた?」
「……口……塞がれて……声、出せなくて……」
机を叩く音、どよめき。
「もっと! どんな顔してた?」
「……笑ってた。……泣くと、余計に……楽しそうに」
手が震えて止まらない。だが、彼らは止めてくれない。
「いいぞ、点入るな。けどまだ薄いな。もっと詳しく言えよ。下はどうされた?」
遥は唇を噛み切りそうになった。
だが、背後から冷たい声が飛ぶ。
「言えないなら──日下部にやらせりゃいいんだ。俺らが押さえて、似たことしてやる」
視界が滲む。
堪え切れず、遥は声を絞り出した。
「……服……脱がされて……触らされて……やめろって言ったのに……笑いながら……」
その瞬間、教室は歓声に包まれた。
紙の上に誰かが「加点」と大きく書く。
遥は俯いたまま、指先で机を握り潰すように押さえた。
心の中ではただ一つ――日下部だけは絶対に巻き込ませない――それだけを繰り返していた。