遥は壁に押しつけられ、腕を固定されていた。動けない。逃げられない。目の前に並ぶ数人のクラスメイトの表情は、笑っているのに冷たい。遊び半分の残酷さが、その目に浮かんでいる。
「なぁ、次はさ……爪とか、どう?」
「うわ、それヤバ……でも面白そう」
「だってさ、あいつなら我慢してくれるだろ? 声出すなよ、遥」
ぞくり、と背中を冷たい汗が流れる。
――やめてくれ。
心の中で必死に叫んでも、声にならない。
一人が遥の手を掴んで机に押しつける。もう一人が細い金属のヘラのようなものを取り出し、爪の先にカチカチと押し当てる。
「うわ、ちょっと入ったぞ。白いとこ浮いてる」
「すげぇ……! いける、いける!」
「ほら、耐えろよ雑巾。泣くなよ?」
押し込まれるたびに、爪と肉の隙間に焼けるような痛みが走る。遥の喉から思わず、かすれた声が漏れる。
「……っ、あ……!」
笑い声がはじける。
「なにその声、犬みたいだな」
「雑巾が鳴いてるぞ」
「もっと強く押せよ」
爪の縁がぐらりと浮いた瞬間、遥は頭が真っ白になる。息が詰まり、全身の力が抜けていく。痛みだけが鮮明に、脳を突き刺す。
――なんで……俺だけ。
――俺は何のために生きてんだ……。
声を押し殺し、涙が零れる。必死に握り込む指先を、無理やり開かれる。
「見ろよ、この顔。歪んでる。超おもしれぇ」
「剥がれたら次、他の指もいけるな」
「今日はどこまでできるか試そうぜ」
彼らにとって、それはただの遊び。だが遥にとっては、体も心も引き裂かれる地獄だった。
机に押さえつけられながら、遥は思う。
――お願いだ、やめてくれ。
――もうこれ以上、俺から何も奪わないでくれ。
しかし願いは届かない。笑い声が響き、痛みと羞恥と恐怖だけが積み重なっていく。
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