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デザートを終えると、二人は店の出口へ向かった。
会計の際、夏帆が透也に言った。
「私、半分払います」
「いいのいいの、大丈夫! 誘ったの俺なんだから」
「でも……」
「本当にいいから。楽しかったし、また来ようね」
「すみません。ご馳走様です」
夏帆は心から礼を言った。
(駿介とは大違い……なんかちょっと感動!)
そう思いながら、透也がドアを開けて待っている助手席へ乗り込んだ。
車が走り出すと、透也が確認するように尋ねた。
「本当に彼に返信しなくていいの?」
「いいんです。構うと際限なく続きそうですから」
「まあ、そうだけどさ……」
そこで夏帆はハッとした。
このまま曖昧な状態にしておくと、駿介が透也のマンションへ押しかけてくるかもしれない。
それはまずいと思い、透也に言った。
「あ、でも……駿介が押しかけてきたら困りますよね。やっぱり返信したほうが……」
夏帆が携帯を取り出そうとすると、透也がそっと制した。
「来たら追い返すから大丈夫だよ。でも、夏帆ちゃんは鉢合わせしないよう気をつけてね」
「すみません……いろいろとご迷惑をおかけして」
「気にしないで。あいつとは昔から犬猿の仲だったし……」
「犬猿の仲?」
「そう。あいつはいつも俺に言葉で掴みかかってきてたからね。たぶん、今でもかなり根に持たれてるんだろうなあ」
「え? どうしてですか?」
「聞きたい?」
「はい」
「じゃあ話すけど、あれは高三のときだったかな。部活を引退する直前に“トレード大会”っていうのがあってさ。グループごとに競うんだ。俺とあいつは別のグループで、最後に二組で首位を争ってた。もちろん、狙っている銘柄も同じ。で、あいつは“株価は上がる”、俺は“下がる”と予想したんだ」
「へぇ……。で、結果はどうなったんですか?」
「俺の予想が当たって下がった。だから首位は俺たちで優勝したんだ」
「それはすごいですね。駿介は花田証券でも一、二を争うトレーダーなんですよ。その彼に勝つなんて」
「いや、たまたまだよ。相場は水物だからね。本当に偶然当たっただけなんだ」
決して自慢せず、謙虚に話す透也を見て、夏帆はまた印象が変わった。
大手証券会社の敏腕トレーダーとホスト。
世間的には駿介の方が“勝ち組”だが、透也はホストという肩書だけでは収まらないほどの人材なのではないか――そう思えてきた。
「でも、三十を過ぎた今でも根に持ってるなんて……、大人げないかも」
「あいつは昔からそうだったよ。プライドがエベレストより高いからね~」
「エベレスト?」
「うん。得意げになると、こんな顔しない?」
透也はツンとすました顔をしてみせた。
「ふふ、そっくりです」
「でしょ? でも、あの頃が懐かしいなあ……」
当時を思い出して懐かしむ透也を見て、夏帆はふと、彼が高校時代にどんな女性と付き合っていたのか気になった。
駿介の過去は気にならないのに、透也のことは妙に気になる。
そのとき、車がマンションの駐車場に到着した。
「お疲れ~。急に誘っちゃって悪かったけど、楽しかったね~」
「はい。お食事、とっても美味しかったです。それに、いろいろ相談にも乗っていただき、ありがとうございました」
「うんにゃ、気にしないで。あ、そうそう、念のため夏帆ちゃんの連絡先教えてくれる? もし伊坂が来たときは連絡するから」
「あ、はい……」
もし駿介が来たら連絡をもらえるのはありがたいと思い、夏帆は素直に連絡先を交換した。
「おっけ! じゃあ部屋に戻ろうか」
「はい」
二人は車を降り、マンションのエレベーターへ向かった。
――その頃、駿介は夏帆からの返事が来ないことに苛立っていた。
(なんなんだ、あいつ。まさか……夏帆と付き合ってるのか?)
昔のライバルが、自分が捨てた女と一緒にいる――そう思うと、妙に胸がざわついた。
さらに、元カノが自分と同等か、それ以上の男と付き合っているかもしれないと考えると、落ち着かない。
透也がときおり経済誌や新聞に登場していることも、ファンドを設立し業界で頭角を現していることも、駿介はよく知っていた。
だからこそ、余計に面白くない。
(夏帆のやつ……なんで返事をよこさないんだ……)
そのとき、駿介の携帯にメッセージが届いた。
(夏帆か?)
身を乗り出して画面を見ると、それは紗英からのメッセージだった。
駿介は露骨に肩を落とした。
【駿介さん、今から行ってもいい? デパ地下でお惣菜買ったから、一緒に食べましょう♡】
冷ややかな目でその文面を読むと、駿介は少し苛立ちながら返信した。
【悪い! 今から友達と飲み行くんだ。ごめんね】
もちろん、飲みの予定など入っていない。
【えーっ、嘘! もうお惣菜買っちゃったのに~】
紗英からの返信を読む気にもなれず、駿介は携帯をソファへ放り投げた。
(腹減ったな……コンビニでも行くか)
一方その頃――
透也と別れた夏帆は、部屋のカーテンを閉めながら、今夜の出来事を思い返していた。
「料理、美味しかったなぁ……。あんなちゃんとした店、いつ以来だろう」
駿介とは安い庶民的な店ばかりだったので、余計に新鮮だった。
もちろんデートではない。
それでも、女性としてきちんとした店へ連れて行ってもらえるのは嬉しい。
そして何より――心配していたような下心は、透也にはまったくなかった。
疑った自分が恥ずかしくなるほど、彼は普通の隣人として接してくれた。
(ふふ……ホストだからって疑って悪かったな。ちょっと見直しちゃった)
そう思いながら、夏帆はシャワーを浴びようとバスルームへ向かった。
この日、元恋人の駿介から連絡が来ていたというのに、そんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。
夏帆は華やいだ気持ちのまま、鼻歌を口ずさみながらシャワーを浴びた。
コメント
11件
夏帆ちゃん、ホストから抜けきれず🤣 夏帆ちゃんのなかで、透也さんの好感度ポイント上昇中⤴︎🤭︎ 連絡先もサラッと交換✨️ 透也さんさすが👏 元カレ、ほんとに押しかけて来たりして💦 明日も楽しみです😊
いやいや夏帆ちゃん、透也さんに下心はあるはずよ〜(灬ºัôºั灬)♡ もちろん、身体だけの下心じゃなくてね! 見た目は好み、話せば気の合う雰囲気…例えホストじゃなくても捕まえる気満々だよ⤴ さり気なく距離を詰める手練加減、ある意味ホストより女慣れしてるかも! 駿介のエベレストなプライドが、土石流になって被害を齎しませんように。 そうなる前にPeak hunt!୧( •̀ㅁ•́๑)૭

方や謹慎中。 方や鰻上り中😁 人間的に根本から違うのね😎