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スタジオの奥、光が斜めに差し込む空間で、モデルは静かに立っていた。
その姿を見つめるカメラマン――高木の目は、ただのレンズ越しでは満たされない何かを探しているようだった。
「もっと、自然に――いや、違う。そこじゃない」
低い声が響く。モデルの肩が微かに震えた。
体の角度、首の傾け方、手の位置。すべてが指示によって変えられる。
だが、それは単なる撮影指示ではなく、二人だけの暗黙の支配関係のようにも感じられた。
「高木さん……」
かすれた声。モデル――椿は目を伏せる。
いつもなら笑って応じるはずなのに、今は違う。
レンズの向こうの視線に捕らえられ、逃げられない感覚が彼を支配していた。
「そのまま。動かないで」
高木はゆっくり近づき、椿の髪に触れる。指先の感触が、肩越しに伝わる。
椿は息を止めるしかなかった。
カメラを通さなくても、視線は身体を捉えていた。
「……カメラ越しじゃなくても、見たいんだ」
吐息混じりの声。
椿は顔を上げる。瞳が一瞬、高木を捉えた。
その目が何を求めているのか、彼はまだ知らなかった。
シャッター音が、連続して響く。
その音は、まるで鼓動のようで、室内に濃密な時間を作り出す。
椿の体の微かな反応も、画面には写っている。
けれど、それだけでは満足できない高木の目は、スクリーンを通しても止まらない。
「息、乱れてるな」
囁く。
椿は顔を背けた。頬を赤く染めながらも、視線はカメラから逸れない。
彼の視線に捕まったまま、体も心も、知らぬ間に縛られている。
ゆっくり、椿の手首に触れる。
衣の上からの指先の圧が、息を詰まらせる。
撮影用の光も、ポーズも、すべてが二人の間の呼吸のようになった。
「俺だけの視界に収めたい」
高木の低い声が、耳元で揺れる。
椿は震え、目を閉じる。
カメラ越しでも、直接でも、逃げられない。
彼の視線が、皮膚に刻まれていく。
シャッターの音は止まらず、時折、彼の囁きが混ざる。
椿の体は、緊張と期待で反応している。
だが、高木はその反応に満足せず、さらに近づき、指先や言葉でじわりと境界を侵していく。
その夜、スタジオは二人だけの世界だった。
レンズの中に映るのは、光に浮かぶ肌と影だけ。
視線と呼吸が絡み合い、誰も触れていないのに、心も体も絡め取られるような感覚。
シャッター音の合間、椿の呼吸が荒くなる。
高木は笑わず、ただ見つめ続ける。
その視線が、身体の奥まで侵食していく。
レンズの中に、罪のように残るもの――
それは、二人だけの秘密であり、執着の証だった。
夜が更けても、誰も入らないスタジオで、二人は互いの存在を確かめ合った。
触れられずとも、視線だけで縛り合うその瞬間が、何より濃密で、罪深かった。