続いて奈緒が会計を終えると、井上が店の外で待っていてくれた。
二人はエレベーターへ向かいながら会話を続ける。
「俺、むっちゃ深山さんの事を崇拝してるんです」
「え? そうなんですか?」
「はい。この会社に入ったのも、深山さんのもとで働きたいと思ったからなんっす」
「へぇ、そうなんだぁ。深山さんが聞いたらきっと喜びますよ」
「だったらいいな。あ、でも俺、深山さんに会ったら喋れないっすから……緊張しちゃって……」
「えーっ? そんな風には見えないのに」
奈緒がクスクスと笑っていると、ちょうどエレベーターが到着した。
扉が開くと、ちょうど中から省吾と公平が出て来た。
今日二人はこれから福岡まで出張だ。
二人は奈緒に気付くと声をかける。
「麻生さん行って来るよー」
「奈緒、留守よろしくな」
「はい。お気をつけて」
省吾と奈緒はアイコンタクトを取る。その際、省吾は奈緒の隣にいる井上に気付いた。
「アレ? 君、井上君…だよね?」
「は、はい……」
「いやー、この間の大豊建設さんの件、本当に助かったよー。君のお陰でうちの会社は救われたようなもんだ」
突然憧れの人からそんな言葉を言われたので、井上は感激のあまり硬直している。
そしてしどろもどろに返事をした。
「あっ、いえ……お、お役に立てて良かったです」
「これからも期待しているぞ! じゃあまたな」
省吾は井上の肩をポンと叩くと、公平と共に出口へ向かった。
そんな省吾の後ろ姿を、井上は羨望の眼差しで見つめていた。
その時エレベーターのドアが閉まりそうになったので、慌てて奈緒が声をかける。
「井上君、乗りましょう」
「あ……はい」
エレベーターへ乗った途端、井上が叫ぶ。
「マジかぁ~~~! 俺超やばいっす!」
井上が感激のあまり両手で顔を塞ぐ。余程嬉しかったのだろう。
「良かったですね」
「はい、この会社に来て良かったーーー!」
「フフッ、深山さんもきっと井上さんみたいな有能な社員がいて良かったーって思ってますよ」
「ならいいんですけど」
井上は少し緊張が解けたのかニコニコしている。
そこでふと何かを思い出して奈緒に聞いた。
「そういえば麻生さんがいる秘書課には、中森さんっていう方がいましたよね?」
「あ、はい。恵子さんですよね? それが何か?」
「え、あ、いや……あの人いつも元気っすよね。真っ黒に日焼けして声もデカいし」
「ああ、あの日焼けはゴルフ焼けなの。恵子さんは見た目は小柄で可愛らしい感じだけど、ゴルフの腕前は結構凄いみたいですよ」
「へぇ~、ゴルフかぁ……そうだったんだ……」
井上はなぜか嬉しそうな顔をしている。そこで勘が鋭い奈緒はピンとくる。
そしてその勘が当たっているかどうか、試しに言ってみる。
「恵子さんは今フリーで暇だからゴルフに打ち込んでいるみたい」
「えっ? フリーなんですか?」
井上が食らいついてきたので奈緒は続ける。
「そう。なんでも前の恋愛で酷い目に合ったから、もう恋愛は懲り懲りって言ってたわ。それでゴルフに打ち込んでいるみたい」
「へぇ……そうなんっすね……」
井上は何かを考えている様子だった。
そこで奈緒は思い切って言ってみる。
「私で良かったら協力しましょうか?」
「えっ? ハッ? な、なんでわかったんっすか?」
「私結構勘が鋭いんです」
「アハハッ……いや、参りましたっ! 麻生さんマジやばいわ~」
「フフッ、自分の事には疎いんだけど、人の事はすぐわかっちゃうみたい」
奈緒はクスクスと笑う。
その後二人は情報交換の為に連絡先を交換した。
そして奈緒は念の為井上にこう助言した。
「とにかく今恵子さんはかなりの男性不信だから、そこだけは注意して下さいね」
「了解っす! じゃあまた」
エレベーターが39階に到着したので、井上はニッコリ笑ってエレベーターを降りた。
一人になった奈緒は思わず微笑む。
エレベーターを降りて秘書室へ戻った奈緒は元気な声を出した。
「ただいまぁ」
「奈緒ちゃん遅かったね」
「下で井上さんと一緒になったから、少しお喋りしてました」
「井上さんって、あのヒーロー井上君? 技術部の窮地を救った?」
「そうです」
そこで奈緒はチラッと恵子の反応を見る。しかし恵子が全く反応を見せないので思わずがっかりする。
その時、恵子の携帯が鳴った。
「あっ、すみません、ゴルフ仲間からだわ」
恵子は携帯を持って廊下に出て行った。
その隙に、奈緒はさおりの肘をツンツンとつついてから手招きをする。
「どうしたの?」
さおりが奈緒に顔を近付けると、奈緒は小声で言った。
「井上さん……恵子さんの事が好きみたいです」
「えっ、ええーーーっ!?」
さおりが大声を出したので、奈緒は慌てて「シーッ」というポーズを取る。
「ごめんごめん、だって驚いちゃったんだもん。で?」
「はい。私嬉しくって、つい井上さんと連絡先交換しちゃいました」
「ハッ? なんで奈緒ちゃんが連絡先を交換するのよ?」
「フフッ、もちろん情報提供のためですよぉ~」
奈緒はそう言ってニヤッと笑った。
「うわっ、なんか今奈緒ちゃんの新たな一面を発見した気がする! でもさぁ~恵子ちゃんって確か年下はNGだったような?」
「え? そうなんですか?」
「うん。確か弟さんが二人いるから、ちょっとでも年が下だと全部弟に見えちゃうーって前に言ってた。ほら、だから付き合う人はいつも年上でしょう? それも結構年が離れた人が多いよねー?」
「えーっ、知らなかった―。じゃあ井上さんがっかりしちゃうなぁ」
「いや、ちょっと待って! あのさ、恵子ちゃんって結構姉御肌よね?」
「はい。体育会系の性格だから、いつもボスの君島さんを手玉に取っていますよね?」
「それって実はさぁ、年下の方が相性いいって事なんじゃないの?」
「あっ、それはあるかも」
「よしっ、この極秘任務に私も乗った」
「そう来なくちゃですっ」
「詳細は今日帰りにお茶でもしながら作戦会議しよっか?」
「ラジャー!」
奈緒がさおりに向かってピシッと敬礼しているところへ、恵子が戻って来た。
「プッ、奈緒ちゃん何やってんの?」
「え、えっと、そう! 今自衛隊の話をしてたのよ。昨日テレビでやってたでしょう?」
さおりが助け舟を出してくれた。
「ああ、それ私も見ました。鍛え抜いた自衛隊の精鋭部隊マッチョ軍団、いいですよねぇ~! 頼れる男の代名詞って感じで…」
恵子がうっとりしながら言ったので、奈緒とさおりはホッと胸を撫で下ろした。
コメント
14件
これから恵子ちゃんと井上くんの恋の行方も要チェックだね😉💕
恵子ちゃん、井上くんにゴルフを教えてやったって〜🥰
井上くん爽やか好青年✨✨✨奈緒ちゃんと、さおりさんが味方なんて心強いね👍👍👍