休日の午前。
アレクシスはエコバッグを片手に、玄関でスニーカーの紐を結んでいた。
「真白、準備できた?」
「……五分待って」
リビングの奥から、半分寝た声。
休日の朝の真白は、だいたいこれだ。
アレクシスは苦笑しながら立ち上がり、テーブルの上のメモを確認する。
牛乳、卵、トマト、洗剤、あと――「アイス(真白用)」と書かれていて、思わず笑ってしまった。
五分後、髪も服も寝ぼけたままの真白が出てくる。
「……コンビニじゃなくてスーパー行くの?」
「うん。冷凍庫の中身、そろそろ整理したいし」
「アレクって、ほんと主婦みたい」
「褒めてる?」
「七割くらい」
アレクシスが軽く肩をすくめると、真白の口元が小さくゆるんだ。
外は、春の終わりの匂いがした。
少し冷たい風。まだ陽射しは柔らかい。
並んで歩く二人の影が、アスファルトの上で重なったり離れたりする。
「ねえ、晩ごはん何食べたい?」
「うーん……オムライス」
「また?」
「好きなんだよ。アレクの作るやつ」
「バター多めのやつでいい?」
「うん。あとケチャップでハート描いて」
「……それ、自分でやって」
軽口を交わしながら、スーパーのドアが自動で開く。
中はいつも通り人が多くて、子どもの声とレジの音が混ざり合っていた。
アレクシスは真白にカゴを渡し、手早く野菜を選ぶ。
真白はその後ろをのんびりついて歩く。
まるで買い物というより、アレクシスの後を追う散歩のようだった。
「ねえ、これ買っていい?」
真白が冷凍コーナーで見つけたのは、苺のアイス。
「昨日も食べたよね?」
「季節限定なんだって」
「……じゃあ一つだけ」
「やった」
その笑顔に、アレクシスは小さく息を吐く。
“この人の機嫌を取るために生きてるのかもしれない”――そんな考えが、ふと頭をよぎった。
レジを出るころには、エコバッグがずっしりと重くなっていた。
「持つよ」
真白が手を伸ばすと、アレクシスは小さく首を振る。
「いい。ほら、アイス溶ける」
「……アレクって、なんでも抱え込みすぎ」
「癖だから」
歩き出す二人の間に、沈黙が落ちる。けれどそれは、気まずい沈黙ではなかった。
風の音と、ビニール袋が擦れる音。
その中に、ふたりだけの時間が穏やかに流れていく。
家に着くと、真白はすぐ冷凍庫を開け、アイスを入れた。
アレクシスはその様子を見ながら、やれやれと笑う。
「溶ける前に帰れてよかったね」
「うん。……ねえアレク」
「なに?」
「次の休みも、一緒に買い出し行こう」
「どうして?」
「アレクといると、なんかちゃんとした休日って感じするから」
アレクシスは答えず、代わりに真白の頭を軽く撫でた。
窓の外では、午後の光がゆるやかに部屋へ差し込んでいた。
ありふれた休日。けれど、それだけで十分だった。







