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誰もいないロッカールームで、高西 賢は悔しさと名残惜しさを滲ませながら、黙々と荷物を片付けていた。
──戦力外通告
ここ数年、一軍と二軍を行ったり来たりしていたものの、『俺は、福岡ハードバンクファルコンズ一筋でプレイしていく』と決心していた。
二〇二六年のシーズン開幕前に開催された野球の国際大会、BWCで、彼は日本代表から選考漏れ。
公式戦が始まると、一軍での登板は少なかった賢だが、リーグ優勝し、クライマックスシリーズも全勝した。
日本シリーズは、第四戦でゲームの中盤から中継ぎ投手として登板したが、彼に勝敗は付かずじまいである。
ファルコンズは、セ・リーグの覇者、京阪チーターズを倒して、今年も日本一になった。
優勝旅行のハワイも満喫し、来シーズンに向けて再起を誓ったばかりだったのに。
今シーズンは、自分なりに少しでもチームに貢献できたかと思っていたが、球団事務所に呼び出されてクビを宣告され、このザマだ。
「クソッ……!」
苦悶の表情を浮かべながら、愛用のグローブを乱雑にダンボールへ放った後、賢はハンガーに掛けてあった背番号41のユニフォームを、半ば無理やりに引き剥がすと、まじまじと眺めた。
このユニフォームを頂き、初めて袖を通した時の事を不意に思い出す。
母校の藤森学園高校初のプロ野球選手として、夢と希望を抱いて入団した、あの頃。
華やかな世界で活躍し、一流の投手になる、と意気込んだ。
と同時に脳裏を掠めるのは、十一年前、夏の甲子園予選の決勝戦で、九回裏にサヨナラ満塁ホームランを浴びせられたシーン。
『高西ぃいいぃ! 頑張れぇぇええぇっ!!』
大歓声に紛れて聞こえてきた、元クラスメイトの黄色い声援は、今でも彼の鼓膜に焼き付いて離れない。
「あの時、甲子園出場を決めていれば……俺のプロ野球人生、少しは変わっていたのかな……」
感傷に浸る彼の手が止まり、ハッとして現実に引き戻されると、長きに渡って親しんだユニフォームを、ぞんざいにダンボールへ投げ入れる。
「この屈辱は、必ず……マウンドに立って返してやるからな!」
癖のある長めの前髪をグシャリと掴んで掻き上げた賢は、全ての荷物を引き上げてダンボールを抱えると、大股で歩き出し、思い出の詰まったロッカールームに別れを告げた。
コメント
1件
うわ、これめっちゃ熱い……! 戦力外通告からの再起モノ、好きすぎる。 「この屈辱はマウンドに立って返す」って台詞、グッと来た。 ユニフォームを眺めるシーンで、甲子園予選の記憶がフラッシュバックするところ、解像度高すぎて泣ける。 プロとしての誇りと悔しさがビンビン伝わってきたわ。続き、絶対読みたい🔥