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教室の中央に置かれた机の上、紙切れが揺れる。文字には挑発が滲んでいる。
「昨日の夜、何があったのか話せ」
加害者たちの視線が遥に注がれる。笑みは薄く、しかし牙を隠しているわけではない。教師も“監視”の目を逸らさない。
遥は膝を抱え込み、頭を抱えた。呼吸は浅く、思考は夜の出来事に押し潰されそうになる。晃司の手、颯馬の嗜虐的な笑い、布団の冷たさと自分の震え。すべてが蘇る。
「……あ、あの……」
声がかすれる。誰も手を貸さず、沈黙が増幅する。
「何だ、その声は。ちゃんと言えよ」
小さく声をかけるのは、紙を揺らす加害者のひとりだ。
遥は口を開く。震えながらも、言葉を紡ぐ。
「……昨日の夜は……晃司が……手を……」
言葉が止まる。喉の奥で詰まる痛み。胸の奥で、日下部の顔が浮かぶ。あいつに、こんなことさせたくない――その思いが声を閉ざす。
「続けろよ。日下部が見てたらどう思う?」
加害者の指が紙の文字を指す。日下部のことを想像させるだけで、遥の胸が締め付けられる。
「……いや……日下部には……関係ない……ことだけど……」
また言いよどむ。口を押さえられそうな感覚が走る。
「そんな言い訳じゃ点数にならねえぞ。言え。昨日の夜、何があった」
声は冷たく、指先は紙の上で揺れる。日下部の目を思い浮かべるたび、遥は涙で視界が滲む。
「……晃司が……首に……触れて……布団の上で……押さえつけて……」
言葉が震える。息は浅く、震えが止まらない。
「それだけか?」
加害者の嗜虐的な笑み。
「……それだけじゃ……ない……」
遥はさらに言葉を吐き出す。布団の冷たさ、手の冷たさ、震え、呻き声。誰にも届かない叫びが、教室に小さく響く。
「お前、日下部のこと考えたか? あいつが見たらどう思う?」
言いよどむたび、日下部の存在を持ち出される。胸の奥が痛む。守りたいのに、守れない。だからこそ、言わざるを得ない。
「……日下部には……関わらせたくない……俺が……全部……受ける……」
声はかすれ、唇は震える。涙が頬を伝う。だが加害者たちはそれすら、笑いの種に変える。紙に書かれた点数表をちらつかせ、次の挑発へと進む。
遥の体は小さく震え、精神は押し潰されそうになる。だが胸の奥には、日下部を守るわずかな希望だけが残る。
(……俺が……耐える……日下部には……もう……何も……)
教室の笑いとざわめきが、痛みを増幅させる。遥は自分を折り曲げ、羞恥と曝露の渦中で、かろうじて理性を保つしかなかった。