📩 相談
中学一年生・仮名:Mさん
家では普通に過ごせます。
ゲームもするし、家族とも話せます。
でも、学校に行こうとすると急に体が重くなります。
朝、準備はできるのに、玄関で止まります。
行かなきゃいけないのは分かってるし、サボりたいわけでもありません。
でも、どうしても足が動きません。
親には「甘え」と言われて、自分でもそう思ってしまいます。
こういうのってどうしたらいいんでしょうか。
遥
「甘えではない」
即答。
Mさん
「……でも」
蓮司
「“行かなきゃ”って思ってる時点でサボりとは違う」
Mさん
「そうなんですけど」
日下部
「現象としては」
少し間。
「“場所による反応の差”が出ている」
Mさん
「反応」
遥
「家では平気で学校だと無理」
短く言う。
「それ、珍しくない」
Mさん
「そうなんですか」
蓮司
「わりとある」
Mさんは少し驚く。
「でも」
小さく言う。
「理由が分からないんです」
遥
「分からなくても起きる」
Mさん
「え」
日下部
「人は必ずしも明確な原因を自覚できるとは限らない」
Mさん
「……」
遥
「ただ」
少し視線を向ける。
「“何もない”ことは少ない」
Mさん
「何かはある」
蓮司
「小さいのが積み重なってるパターンな」
Mさん
「例えば」
遥
「人間関係」
蓮司
「評価」
日下部
「失敗経験」
遥
「空気」
Mさんは少し黙る。
「……全部、少しずつあるかもしれません」
遥
「それで十分理由になる」
Mさん
「でも」
少し強く。
「他の人も同じ環境なのに普通に行けてます」
遥
「比較しなくていい」
即答。
蓮司
「耐性は人それぞれ」
日下部
「同じ刺激でも反応の強さは異なる」
Mさん
「……」
遥
「問題は」
少し間。
「“行けるかどうか”じゃなくて“どう扱うか”」
Mさん
「扱う」
蓮司
「無理やり押し込むか調整するか」
Mさん
「押し込んだ方がいいんじゃないですか」
遥
「短期ならあり」
少し間。
「でも続かない」
Mさん
「……確かに」
日下部
「反動が来る可能性がある」
Mさん
「じゃあどうすれば」
遥
「段階を下げる」
Mさん
「段階」
遥
「“学校に行く”を一つの塊にしない」
蓮司
「細かく分ける」
Mさん
「分ける」
遥
「例えば」
指を軽く動かす。
「制服を着る
玄関まで行く
外に出る」
蓮司
「学校の近くまで行く」
日下部
「校門まで行く」
遥
「入れたら入る」
Mさん
「……」
少し驚く。
「そこまで細かくていいんですか」
遥
「いい」
蓮司
「むしろその方がいい」
日下部
「成功体験を分割する」
Mさんは考える。
「でも」
小さく言う。
「途中で止まったら意味ない気がします」
遥
「ある」
短く。
「“そこまでできた”になる」
Mさん
「……」
蓮司
「ゼロか100で考えすぎ」
Mさん
「確かに」
日下部
「もう一つ」
静かに言う。
「“行けない日”を前提にする」
Mさん
「前提」
遥
「全部行けるようにする、じゃない」
少し間。
「行けない日があっても崩れない形にする」
Mさん
「崩れない」
蓮司
「一回ダメで全部終わり、にしない」
Mさんは黙る。
「親には」
小さく言う。
「理解されないです」
遥
「それもよくある」
蓮司
「“見えないやつ”だからな」
日下部
「外からは判断しにくい」
Mさん
「……」
遥
「だから」
少しだけ柔らかく。
「自分で“甘えじゃないかどうか”証明しようとしなくていい」
Mさん
「え」
遥
「状態として起きてるだけ」
蓮司
「現象な」
日下部
「評価ではなく事実として扱う」
Mさんはしばらく黙る。
「動けない自分が」
小さく言う。
「嫌でした」
遥
「嫌でもいい」
短く。
「でも否定しすぎると余計動けなくなる」
Mさん
「……」
蓮司
「敵増やすだけだしな」
日下部
「自分も敵に含めると逃げ場がなくなる」
Mさんはゆっくり頷く。
「少しずつでもいいなら」
遥
「いい」
蓮司
「むしろそれが現実的」
日下部
「継続可能な形が重要だ」
Mさんは立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「明日」
少し考える。
「とりあえず外に出るところまでやってみます」
遥
「それでいい」
蓮司
「十分すぎる」
日下部
「一歩として成立している」
Mさんは小さく頭を下げた。
ドアが閉まる。
静かな空気。
蓮司が言う。
「“動けない系”って本人めちゃくちゃ責めるよな」
遥
「見た目サボりに見えるからな」
日下部は静かに言う。
「しかし」
少し間。
「動けない状態は意思の弱さではなく反応であることが多い」






