テラーノベル
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教室の蛍光灯は白々とした光を投げかけ、誰も彼もが観客のように遥を囲んでいた。机に回された紙が、今度は別の声で読み上げられる。
「――“晃司と颯馬、どっちに最初にやられた?”」
一瞬、空気が凍る。次の瞬間、ざわざわとした笑いと囁きが広がる。遥は指先を強く握りしめた。呼吸が胸の奥で引っかかる。
「……答えろよ。黙ってるとまた日下部の減点だぞ?」
その脅しに、遥は吐き出すように声を震わせた。
「……晃司……」
途端に、爆発するような笑い声が広がる。
「兄貴にヤられるとかやべえ!」
「お前んち、家族パーティーじゃんw」
誰かが机を叩き、別の誰かは口笛を鳴らす。遥は視線を落とすしかない。
「で? どんなことされたんだ? 細かく言えよ。隠すと加点なくなるぞ」
「……押し倒されて……手足、抑えられて……」
「おお、力技! さすが兄貴!」
「なあ、叫んだ? “やめろ”とか」
「……言った……でも……笑って、余計に強く……」
その答えに女子の一人が「最低〜!」と甲高く笑い、男子が「でも結局されちゃったんだろ? 弱すぎ」と罵倒を浴びせる。
「じゃあさ、颯馬は? 晃司と比べてどうだった? テクニシャン? 下手?」
遥の心臓がひりつく。頬が焼けるように熱く、喉は渇いて声が出にくい。
「……颯馬は……晃司の横で……見てて……途中で、代わった……」
「マジかよ! 二人リレーww」
「順番待ちとか、家族の遊び場じゃん」
どっと笑い声が湧き、椅子を蹴る音が混じる。遥の耳に、乾いた笑いが反響して止まらない。
「で、どっちが上手かったんだ?」
「正直に言えよ、嘘は許さねえから」
「……どっちも……嫌だった……」
「はいはいw でも体は反応したんだろ? 沙耶香の時も言ってたよな。声出ただろ? どっちのとき?」
「……颯馬……」
教室がまた笑いに包まれる。誰かが「弟の方が気持ちいいとか終わってんな!」と叫び、別の誰かが「でも晃司は力強いタイプw 颯馬は優しいのかもなw」と勝手に分類して盛り上がる。
遥は歯を食いしばり、俯いたまま机を掴む。だが追及は止まらない。
「なあ、泣きながら喘いでたんだろ? 姉の時と違って、兄には甘えてたんじゃね?」
「“お兄ちゃんやめて”とか、“もうやだ”とか言った? 声真似してみろよ」
「……やめて……やだ……」
震えた声が教室に落ちる。笑いと拍手と口笛が混ざる。
「ほらやっぱww その声、リアルw」
「点数マシマシだな、今日のネタは当たり!」
遥は頭を抱えたい衝動を押し殺す。だが吐き出した言葉も、その吐き気も、すべてが彼らの娯楽に変換されていく。
「なあ、今度は晃司と颯馬、どっちに“また”されたいか答えろよ」
言葉が刃のように突き刺さり、遥の喉はひくついた。答えるしか、生き延びる術はない。
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