テラーノベル
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講義が終わるチャイムが鳴った。誰かの椅子が乱暴に引かれる音、教科書を閉じるパタンという小さな破裂音の連鎖。そのなかで、悠翔はまだ動けずにいた。指先が机の端を掴んだまま、肘から先がうまく力を受け止めてくれない。
喉の奥に、言葉にならない痞えがある。
それが痛みではないと知っているからこそ、彼は咳をしなかった。音にすれば、誰かの注意を引く。それが、何よりも厄介だった。
背後で、小さく通知音が鳴った。LINEか、Telegramか、もう聞き慣れたそれ。悠翔は首筋に汗を感じながら、恐る恐るスマートフォンの画面を覗く。
《今夜のやつ、そろそろ上げる?》
《教授、チェックするの月曜って言ってたよね笑》
文面は軽い。語尾の“笑”が、それをただの冗談のように見せかけていた。
だが、悠翔はその「今夜のやつ」が何を意味するか、痛いほどよく知っている。
すでに“撮られている”という事実。それが、彼の行動を縛っている。次の一歩、次の言葉、次の息。すべてに、“あの映像の存在”がまとわりつく。
——なぜ、笑えるのだろう。
あのときの自分を、録った側は、いったいどういう顔で見返しているのだろう。
頭の奥がじりじりと焼けるように痛んだ。たった今、目の前で行われていた講義内容など、何一つ記憶にない。ただ、教授がこちらを一度だけ見たことだけが脳裏に焼きついている。
もしかしたら、すでに、見られていたのかもしれない。
それとも、これから見られるのか。誰が、いつ、どこで、何を思いながら、あの映像を再生するのか。
悠翔の背中を、じっとりとした冷たい汗が伝う。
逃げられない。
その感覚は、暴力そのものよりも強く、鋭く、しぶとく、彼の輪郭を削っていく。
沈黙していれば、映像は“必要以上には拡散されない”。だが、その沈黙自体が、“次”の加害を呼び込む。
「だって、お前が黙ってるからだろ?」
そう言われたときの、あの口元の歪みを、まだ覚えている。
誰が言ったか。陽翔か。蓮翔か。蒼翔か。あるいは、三人とも。
映像を切り取る彼らの目線は、いつも変わらなかった。冷たく、退屈そうで、しかしどこか——待っている目だった。
何かが起きるのを、心から期待している目だった。
悠翔は、膝の上で小さく拳を握った。だが、指は爪の跡を残すことさえできなかった。
骨の芯に、恐怖が染みている。
「また」撮られるのではないか、ではない。
「もう」撮られている、という事実。それが、彼の喉を塞いでいた。
──このまま、飲み込んでしまえば済むのかもしれない。
だが、それすら“誰かが望んでいる”気がして、悠翔は目を伏せた。吐くことすら、思い通りにはできない。
大学の廊下を歩く足音が、遠くに響いた。
彼の時間だけが、そこからずれていた。
しずまる@Sくんに卒業式告白!
のまめ
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コメント
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よかった…いや、重かったなあ。悠翔の視点、ほんとに息が詰まる感じがした。“もう撮られている”っていう事実が、彼の輪郭を削ってく描写が痛いほど伝わってきた。三人の“待ってる目”が怖すぎて、震える。逃げ場のなさを、暴力じゃなくて“沈黙”で描くのが上手すぎる。ruruhaさんのダーク表現、いつも心抉られるな🤍🥀