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放課後の空き教室。 窓際でスマホをいじっていた蓮司の前に、制服姿の男子が立った。
「……俺、いまネットでめっちゃ叩かれてて」
椅子に腰を下ろすなり、それだけ言う。
「叩かれるようなこと、したのか」
「いや……“したことにされた”っていうか」
彼は視線を逸らし、机の上にスマホを置く。画面にはSNSの通知が延々と流れ、知らないアカウントからの悪意あるコメントで埋め尽くされている。
「クラスのやつが、俺のことネタにして投稿して……それがウケて広まって、いつの間にか俺が悪者になってて」
「ありがちだな」
蓮司はスマホを一瞥し、特に驚きもせず言った。
「ありがちって……これ、俺の人生終わるやつですよ」
「終わらねえよ。お前のことなんか、来週にはみんな忘れてる」
「そんな簡単に言うなって!」
男子の声が少し上ずる。
「忘れられたくないのか?」
「……いや、そういう意味じゃ」
「じゃあ忘れられたほうがいいだろ」
短く言い切られ、男子は言葉を詰まらせた。
沈黙の中、蓮司は自分のスマホを取り出し、何かを検索して見せる。
「ほら、これ三ヶ月前に炎上してたやつ。お前覚えてるか?」
「……誰?」
「そういうことだ」
男子は黙り込み、机の端を握る手に力を込めた。
「でも……俺、クラスには残るんですよ。ネットは消えても、あいつらは目の前にいる」
「だったら、見せたい顔だけ見せとけ。本音は一ミリも置くな」
「……逃げろってことですか?」
「逃げ方のひとつだ」
蓮司は軽く笑う。
「正面から戦う勇気がないやつは、逃げる技術を持ってればいい。どっちも持ってないやつが、一番やられる」
男子は深く息を吐き、少しだけ肩の力を抜いた。
「……俺、どうせなら“しれっと生きてるやつ”になりたいっす」
「じゃあそうしろ。しれっとしてると、意外と人は追ってこない」
教室を出るとき、男子は一度だけ振り返った。
「……ありがと」
「おう。次は炎上ネタにされない努力もしとけよ」
蓮司はまた窓際に腰を戻し、スマホをいじり始めた。
その顔には助けた達成感はなく、ただ人間観察の好奇心だけが残っていた。