テラーノベル
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年が明け、卒業一ヶ月前になると、三年生は自由登校となり、賢は福岡にあるファルコンズの選手寮に入寮。
卒業式は前日から東京へ戻って実家で過ごし、式が終わると、すぐに福岡へとんぼ返りした。
志絵と、言葉を交わす事もなく……。
帰りの飛行機の中で、賢は高校卒業まで志絵に想いを伝えられず、後悔だけが胸の内を蝕んでいく。
(ここぞ、という時、俺は弱いな。昨年の夏の予選決勝もそうだし、好きな女に…………告白すらできなかったし……)
旅客機の窓越しに広がる雲海を見やりながら、賢は回想に耽る。
約一時間半のフライトは、あっという間に過ぎていき、彼を乗せた飛行機は福岡空港の滑走路に着陸した。
(今の俺にできる事は……一流のプロ野球選手になる事だ。プロで活躍できるようになったら、今度こそ──)
飛行機を降りた賢は、キャリーケースを引きながら新たな決意を胸に、颯爽と福岡空港を後にした。
***
長く思考の迷宮をさまよっていた彼は、半分にも満たない缶ビールを一気に空ける。
元一年八組のクラス会で数年振りに会った坂口志絵は、チャキチャキとした口調は相変わらずだったが、美しい姿で賢の前に現れた。
彼が付けた『総長』ってあだ名も、もう似つかわしくない。
だが、自身が付けたニックネームで長く呼び慣れたせいか、今さら『坂口』と呼ぶのも気恥ずかしく思う。
もともと可愛い顔立ちだったが、あんなに美しくなった志絵だし、もしかしたら恋人だっているかもしれない。
賢もプロ野球の世界に足を踏み入れてから、女性アナウンサーや芸能人と恋愛の場数を踏んできた。
華やかな世界にいる女たちと恋愛してきたとはいえ、心のどこかに、彼の中から志絵の面影が消える事はなく、今も二年前に別れた恋人、モデルで女優の桜井メリルから復縁を迫られている。
しつこい元カノにケリを付けるために、先ほど近所の公園で、十年以上に渡り密やかに想いを育んできた志絵に、彼女のフリをして欲しいと依頼したのだ。
それなのに志絵から二つの条件を事もなげに提示され、妙な闘争心を剥き出しにした賢。
『お前が尊いと思っている『偉大な四天王様』に対する乙女心…………俺が……ブッ壊してやっから』
『お前を俺色に染めて……堕としてやるよ』
志絵に対する正直な気持ちを乗せつつ、啖呵を切ったとはいえ、やはり失敗したな、と彼は思う。
「……『恋人のフリ』じゃなく…………『恋人』って言うべきだったんだよな……」
そう独りごちながら、賢は眼下に望む光の粒子へ視線を配らせる。
(まずは、総長が提示してきた条件をクリアする事だな……)
彼が大きくため息をつくと同時に、ローテーブルに置いてあったスマートフォンが着信を知らせる。
電話の主は予想がついているだけに、このまま無視しようかとも考えたが、いい加減ピリオドを打たないとならない。
「ったく……しつけぇ女だな……」
賢は眉間に皺を深く刻みながら、スマートフォンを掴むと、ぞんざいに通話アイコンをタップした。
管野アリオ
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桃下結衣
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#ロマンスファンタジー
Jasmine
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コメント
1件
読了しました。卒業から再会までの時を経て、賢の胸にずっと居続けた志絵への想いが、クラス会で一気に表面化する感じが切なかったです。「『恋人のフリ』じゃなく『恋人』って言うべきだった」って独り言に、彼の後悔と強がりがぎゅっと詰まっていて、すごく心に残りました。啖呵を切った後の複雑な表情が目に浮かびます。この後どう動くのか、続きが気になりますね🌷