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しずまる@Sくんに卒業式告白!
のまめ
153
“いかせて”──。
たった四文字。それが、大学中を巡回していた。
映像が拡散されたわけじゃない。音声だけ。しかも歪んでいる。何度も編集され、言い直され、あえて喘ぎ声のように加工された一言だけが、耳に入るように置かれていた。
「──おい、言ってみろよ。あれ。ほら、“あれ”」
廊下の突き当たり、悠翔の腕を掴んだ男子学生が、にやついた顔で覗き込む。
反射的に顔を逸らすと、すぐ後ろから押され、壁に背中をぶつけられた。
「逃げんなって。聞きたいだけ。……な? 一回だけでいいから」
“いかせて”って。
口元に携帯。録音モード。笑い声と、見えないレンズ。
悠翔は何も言わない。首を横に振るだけで精一杯だった。
だが、それすら──。
「……やっぱ好きなんじゃん、されるの」
突然、太腿の内側を指先が這った。
脚が震える。反射で身をよじるが、逃げ場はなかった。
距離感は、すでに壊されている。
昼休み。食堂の席に座ると、目の前のトレイに見知らぬメモ用紙。
《おかわりしたい時は、“いかせて”って言ってね♡》
文字は可愛らしい。女子の筆跡にも見えるが、明らかに男の声で書かせたような悪意があった。
視界の端。スマホを構える姿。
食べるという行為ですら、何かを“連想させる道具”にされる。
「お前が変に反応すっから、燃えんだよ」
「マジでそういうの好きなんでしょ?」
「俺らが構ってやんなきゃ誰も見てくんねえのに」
食事中、肩に触れる手。口元に突っ込まれかけるストロー。
後ろから蹴られる椅子の脚。名前を呼ばれることはない。ただ、“素材”として認識されている。
講義室。机に置かれたUSB。差すと動画が一つだけ。
再生すると、声だけ。編集された“いかせて”が、何度も繰り返される。
笑い声。口笛。喘ぎ声のSE。
消そうとする手が震える。再生停止がうまく押せない。
画面の向こうから、「今度はどこで撮る?」という兄の声が混じる。
それでも、沈黙するしかなかった。
反論すれば、それはまた“素材”になる。
否定すれば、“自覚あるんだ”と解釈される。
無視すれば、“反応がいい”と見なされる。
だから、何も言わない。ただ、耐える。
その代わり、少しずつ身体が壊れていくのを自覚する。
夜。トイレで吐く。鏡の中の自分に、何度も問いかける。
「……なんで、生きてる?」
答えは出ない。出せない。
コメント
1件
うわっ…第68話、読んだ後しばらく動けなかったよ…😢 悠翔がじわじわと追い詰められていく描写が、自分のことのように胸に刺さった。周りの「軽いノリ」がどんどん凶器になってく感じ、ホントに怖かった…。特に食べてる時でさえ標的にされる描写がつらすぎて、思わず目をそらしちゃった。でもそれだけリアルで、悠翔の“沈黙しかできない”絶望がひしひし伝わってきた。続きが気になるけど、心の準備してから読みたい…😣💔 ゆめかは全力で悠翔のこと応援してるからね!!🌟