テラーノベル
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「最近、日下部来ねぇな」
前の席の男子が笑う。
「やっぱ捨てられた?」
「飽きられるの早かったな」
「まぁ遥だし」
周囲から小さな笑い声。
いつもの。
聞き慣れた声。
だから何も言わない。
言い返さない。
そんなことより。
その言葉に反論できなかった自分の方が嫌だった。
捨てられた。
違う。
自分で避けた。
自分で距離を置いた。
そう。
そうなのに。
胸の奥が小さく痛んだ。
その時。
教室の入り口に日下部が現れた。
反射だった。
遥の顔が上がる。
目が合いそうになって。
逸らした。
先に逸らしたのは遥だった。
数秒後。
教室の空気がざわつく。
「お、日下部」
「プリント?」
「あー、それ」
日下部は別の男子に用事があったらしい。
笑いながら話している。
遥の方は見ない。
いや。
見ていないわけじゃない。
見ないようにしている。
昨日。
『……分かった』
そう言った。
だから。
本当に距離を置いている。
それが分かる。
分かってしまう。
そして。
それが思った以上に苦しかった。
用事を終えた日下部が教室を出ていく。
その背中が見えなくなるまで。
遥は無意識に目で追っていた。
「……おい」
声に我に返る。
隣の女子だった。
「何見てんの?」
「別に」
「ふーん」
女子はにやりと笑う。
「最近、追っかけてばっかじゃん」
「は?」
「さっきも見てた」
「見てねぇ」
「見てたって」
周囲の何人かがくすくす笑う。
「日下部いなくなったら寂しい?」
「依存してた?」
「うわ」
笑い声。
遥の顔から血の気が引いた。
「違う」
即答だった。
「違う。そんなわけねぇだろ」
「はいはい」
「必死」
また笑う。
笑われる。
いつものこと。
それなのに。
胸の奥がざわつく。
違う。
違う。
そんなわけない。
依存なんかしてない。
好きとか。
寂しいとか。
そんなものじゃない。
そんなものじゃ――
チャイムが鳴った。
五時間目。
教師が入ってくる。
周囲はすぐに興味を失った。
助かった。
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そう思った。
なのに。
授業が始まっても。
黒板の文字は頭に入らない。
『依存してた?』
その言葉だけが頭に残る。
(違う)
ペンを握る。
(違う)
ノートに文字を書く。
(違う)
力が入る。
芯が折れた。
「……っ」
小さな音。
教師が振り向く。
「どうした?」
「……何でもない」
周囲からまた笑い声。
「何やってんだよ」
「集中力なさすぎ」
遥は俯く。
笑われることなんて慣れている。
慣れているはずなのに。
今日は。
違った。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
その日の放課後。
帰り支度をしている時。
教室の窓から見える中庭に。
日下部の姿が見えた。
友達と話している。
笑っている。
楽しそうだった。
自分がいなくても。
当たり前みたいに。
普通に。
いつも通り。
その姿を見て。
遥は。
安心した。
そして。
その安心に。
ぞっとした。
(……何なんだよ)
思わず目を逸らす。
嫌だった。
安心した自分が。
気持ち悪かった。
怖かった。
こんなふうになる前に。
もっと前に。
ちゃんと離れておけばよかった。
慣れる前に。
期待する前に。
好きになる前に。
そうすれば。
こんなふうに。
胸の奥が苦しくなることもなかったのに。
その時。
「遥」
不意に。
すぐ後ろから声がした。
遥の心臓が大きく跳ねた。
コメント
1件
うわ……めっちゃ胸が痛い……。遥くんの「違う」って否定すればするほど、実はそうなんじゃないかって思わせる感じ、すごくリアルだった。周りの笑い声とか「依存してた?」の言葉がずっと頭に残るのも分かる。最後の「遥」って呼ばれた瞬間、心臓跳ねたよ……。続きが気になる……!