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夕暮れの神社、夏祭りの人混みの中を歩きながら、大地は相変わらずのテンションだった。
「お、見ろよ隼人! リンゴ飴! これぞ祭りといえばってやつだろ!」
すでに焼きそばとたこ焼きを食べ終えているのに、大地はまだまだ食欲も元気も衰え知らずだ。
「食いすぎじゃね? 腹壊すぞ」
「はっはっは、大地の胃袋は無限大!」
どうでもいいポーズを決めてから、迷わずリンゴ飴を購入する。
だが、運命は無情だった。
「わっ!」
走ってきた小さな子とぶつかり、大地のリンゴ飴はくるくる回転しながら宙を舞い、そのまま石畳に落ちた。
「あーーーーーー!! 俺の初リンゴ飴がぁぁぁぁ!」
大地は両膝をつき、絶望の演技。周囲の知らない人たちすら笑い出す。
「大げさすぎ」
隼人は呆れながらも、自分のリンゴ飴を差し出した。
「……ほら、俺のやる」
「え、いいのか? おまえの祭りの主役だろ?」
「別に。どうせ一口で飽きるくせに」
「おお! さすが隼人、心の広さが祭りサイズ!」
受け取ろうとした瞬間、大地の指が隼人の手としっかり重なった。ほんの一瞬、けれど隼人の心臓は不意に大きく跳ねる。
「……なに固まってんだよ」
「い、いや、なんでもねーし!」
大地は気にせず豪快にかぶりついた。
「うんめぇ! やっぱ祭りはこれだな!」
「……バカ」
ぼそっと隼人は呟く。
そのとき、花火がドンと夜空に咲いた。大地は「おおお!」と声を上げ、見とれる。リンゴ飴を片手に笑う横顔は、まるで子どもみたいに無邪気で、隼人は目を逸らすことができなかった。
しかしその直後。
「うわっ、人多っ!」
人の波に押され、大地の姿が視界から消えた。
「おい、大地!」
焦って探すと、屋台の端で手を振る姿を見つけた。頬にソースをつけたまま、けろっと笑っている。
「迷子になるかと思ったぜ!」
「おまえが勝手に消えたんだろ!」
怒鳴りながらも、無事を確認して心の底では安堵していた。
「なあ隼人!」
「なんだよ」
「今日一番楽しかったのは――このリンゴ飴事件だな!」
バカ笑いする大地に、隼人は思わずため息をついた。
「……ほんと、どうしようもねえやつ」
でも、そのどうしようもなさに振り回される自分を止められない。