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#読み切り
相談者は座るなり、少しだけ笑った。
「いい人やめたいんですよね」
蓮司は特に反応しない。
「やめればいい」
「できたら来てない」
間が空く。
「何してるときが“いい人”だと思う」
「頼まれたら断らない、空気悪くしない、誰の味方でもない感じで場を回す」
「便利だな」
「自分でも思う」
相談者は机に肘をつく。
「でもさ」
「何」
「それやってると、誰にも嫌われない代わりに、誰にも選ばれない」
沈黙。
「きついか」
「地味に」
相談者は続ける。
「相談は来る。でも遊びには呼ばれない」
「役割が違う」
「分かってる」
少し強く言う。
「でもずっとそれだと、なんか……人として見られてない感じする」
蓮司は少しだけ頷く。
「“機能”扱いだな」
「それ」
短い沈黙。
「じゃあやめればいい」
「だからできないって」
相談者は苦笑する。
「断ったらどうなるか分かるし」
「どうなる」
「空気悪くなる。気まずくなる。最悪、距離置かれる」
「経験あるか」
「ある」
即答だった。
「一回断っただけで、扱い変わった」
沈黙。
「それ覚えてるから」
「またやる」
「そう」
蓮司は少し息を吐く。
「じゃあ現状維持するか?」
「それも無理」
相談者は首を振る。
「もう疲れてる」
静かな声だった。
少し長い沈黙。
「全部やめる必要はない」
蓮司が言う。
「一部やめろ」
相談者は顔を上げる。
「一部?」
「全部断ると反動来る」
「……確かに」
「だから選べ」
「何を」
「受けるやつと、断るやつ」
少し間。
「基準は?」
「自分が消耗するかどうか」
相談者は考える。
「雑だけど分かりやすいな」
「それでいい」
沈黙。
「あと」
蓮司は続ける。
「断り方を変えろ」
「どう変える」
「理由を短くする」
「長く説明しない?」
「言い訳が多いほど弱く見える」
相談者は少し笑う。
「刺さるな」
「“今無理”でいい」
短い沈黙。
「それで離れるやつは?」
「最初からそこまでだ」
相談者は黙る。
少し時間が流れる。
「いい人ってさ」
相談者がぽつりと言う。
「楽なんだよな」
「どう楽だ」
「嫌われないから」
蓮司は頷く。
「でもその代わり」
「疲れる」
「そう」
長めの沈黙。
相談者は立ち上がる。
「ちょっとだけやめてみる」
ドアの前で振り返る。
「全部じゃなくて、一部」
蓮司は短く言う。
「それで十分だ」
“いい人”は、誰にも嫌われない代わりに、自分を削り続ける位置でもある。
だから少しだけ、そこから外れる余地を持っておく。