テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後、人気のない廊下。遥が机に突っ伏して動けずにいると、日下部が無言でノートとペンを引き寄せる。
「……お前、立てるか」
返事はない。遥の目は虚ろで、口元は笑おうとすらしていなかった。
日下部は一度ため息をついてから、机を強く蹴った。
「ふざけんな! 立てよ!」
遥がわずかにびくっとして顔を上げる。
「お前……なんでそこまでやられて、まだ何も言わねぇんだよ」
日下部の声は怒鳴り声に近かったが、震えていた。
「……言ったら終わる」
遥は乾いた声で、言葉を切り捨てるように吐いた。
「“俺が”やってるってなるだけだ。お前まで巻き込まれる」
その言葉に、日下部は拳を握りしめていた。
誰もがそう思って黙ってきた。けれど、自分は違う。
「……巻き込めよ」
遥が眉をひそめる。
「俺は……見てるだけとか、もう無理なんだよ。殴られても、笑われてもいい。俺は、あいつらに“俺も標的だ”って言われてるんだろ。だったら……一緒にやられりゃいい」
沈黙が落ちる。遥の目にかすかな揺らぎが走った。
しかしそれは、安堵ではなく──罪悪感の震え。
「お前……馬鹿だな」
「知ってる」
日下部は即答して、机の上の遥の腕を無理やり引き上げた。
「もう一人で抱えるな。俺がいる」
遥は、その言葉の重さに応えられなかった。
だが同時に、胸の奥に新しい痛みが走る。
(……俺が一緒に壊す)
そう思ってしまうから。