翌日以降のニュースやワイドショーでは松崎隼人の話題で持ち切りとなる。
松崎隼人の逮捕、隼人と星羅のショッキングなトラブル、それは大臣をしている隼人の伯父にまで飛び火し政界までもが揺るがされる。隼人の薬仲間には大物政治家の二世もいたので更に騒ぎは拡大する。
そしてこれまでの隼人の悪行は隼人の伯父が揉み消したのではないかという疑惑も広まり芸能界と政界の癒着やコネクション、枕営業などにも焦点が当てられ騒動は大きくなるばかりだ。
そんな騒ぎの中、仁のドラマの放映がスタートする。
初回視聴率は過去最高のとんでもない数字をはじき出した。それにはテレビ局中枢部も驚きを隠せない。
そしてドラマのあらすじがあまりにも松崎隼人の事件と酷似していたので更なる話題を呼び視聴者は増え続ける一方だ。仁のドラマはドラマ史上過去最高の成績を残した。
当然『陰のヒロイン』であり自分自身を演じるはめになった白鳥ほのかにも注目が集まる。ドラマがきっかけとなりほのかと隼人の不倫が蒸し返される事となりほのかは連日マスコミから追い回される。
覚醒剤を常用していた隼人と交際していたほのかが警察からの事情聴取を受けていた事が明るみになりほのかは女優生命が危ぶまれる事態となる。
幸いその頃にはドラマの撮影は全て終了していたのでテレビ局側には何の支障もなかった。
そんな騒動の中、週刊四季から綾子に取材の申し込みが入る。
仁は嫌なら無理して受ける必要はないと綾子にアドバイスをしたが綾子はあえて取材を受ける事にした。
取材を受ける際に綾子は匿名、そして顔出しはNGという条件を提示する。もちろん週刊四季は快諾してくれた。
取材は都内のホテルで行われた。取材にはもちろん仁が付き添ってくれた。
週刊四季の記者二人がホテルの部屋で待っていた。
仁と綾子が部屋に入るとなんと記者のうちの一人は仁と顔見知りだったので驚く。
その記者は仁が綾子の婚約者である事を知ると更に驚いた。
インタビューが始まると記者は綾子に色々な質問をした。それに対し綾子は知り得る限りの情報を全て開示する。
そんな綾子の潔い姿勢に記者二人は感銘を受けていた。そして記者のうちの一人が綾子に言った。
「あの当時私達は真実を暴いて世間に公表したのですがいきなり大きな圧力がかかり記事は揉み消されてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。今度こそは必ず真実を伝えます。そして小さい子供の命が犠牲になるこんな愚かな事故が二度と起こらないようマスコミ側からも訴えていきたい。だから我々に全てをお任せ下さい。今回は本当にご協力ありがとうございました」
取材が終わると記者二人は綾子に向かって深々とお辞儀をした。
そして今度は仁と顔見知りの記者が仁に向かって言った。
「あのぉー、これは私個人からのお願いなのですがお二人の結婚式も取材させていただけませんか?」
それを聞いた仁と綾子は顔を見合わせる。綾子が小さくうんと頷くと仁が口を開いた。
「一つ条件を飲んでくれますか?」
「何でしょうか?」
「綾子の顔と名前は伏せてくれますか? 一般人との挙式なのでそこは匿名でお願いしたいんです。それと松崎隼人と関連する事も書かないでくれますか? 結婚式は私達の新しい門出なのでそこに過去は一切持ち込みたくないんです。幸せオンリーの記事にしていただけるのなら取材は大歓迎ですよ」
「も、もちろんです! 記事の見出しは『結婚しない作家・神楽坂仁がとうとう美女と結婚!?』こんな感じでいかがでしょうか?」
そこで綾子がクスッと笑う。
「結婚しない作家っていうのがなんだかなー、まーいいか」
「「ありがとうございますっ!」」
「じゃあ後日式の招待状を送りますよ」
「「招待状まで? ありがとうございますっ!!!」」
記者二人は笑顔で顔を見合わせた。
その後すぐに週刊四季がスクープ記事を打ち出す。記事では隼人が過去に起こした人身事故の詳細が記されていた。
事故の過失は隼人にありトラック運転手に過失はなかった事、また隼人の過失を隼人の伯父が金銭で揉み消した事や事故当時隼人が白鳥ほのかと密会をしていた事もはっきりと書かれてあった。
隼人と綾子の離婚の原因は綾子が精神的に病んだからだと隼人はマスコミに説明をしていたが、それは事実ではなく真実は隼人の不倫と父親である隼人が自分の息子を死に追いやった事が原因だと綾子の証言を元に記される。
その他にも週刊四季が独自に入手した情報により隼人が覚醒剤を常用していた事、新人女優やモデルに薬を使いレイプまがいの事を繰り返していた事、そしてヒットしたドラマの脚本は全てゴーストライターが執筆していた事等が明かされる。
週刊四季は飛ぶように売れほとんどの店で完売となる。
そしてその記事を元にテレビでは連日特集が組まれ騒ぎは一向に収まる気配はなかった。
綾子の家族はその騒動を見てかなり衝撃を受けているようだ。
そして皆「あんな奴とは別れておいて正解だった」と口を揃えて言う。
綾子は隼人と結婚した経緯については秘密にしておく事にした。記者にも家族にも黙っておく事にする。
もし真実を知ったら家族がショックを受けるだろう。
それにその真実が世間に広まると会社経営をしている父や兄に迷惑をかけてしまうかもしれない。
だから綾子は仁と相談してその事は二人だけの秘密にしておく事にした。
取材を終えた二人はホテルを出ると手を繋いで歩き始める。
「この後どうする? どこか行きたい所はある?」
「赤ちゃんのお洋服を見たいわ」
「いいねぇ、ここからだと銀座のデパートが近いな。そこでいい?」
「うん」
二人は車で銀座のデパートまで移動するとすぐに子供用品売り場へ向かう。
フロアには綾子が昔よく利用していた子供服ブランドのショップもあった。綾子は迷わずその店に入る。
「うわー可愛い!」
綾子は可愛らしいロンパースを手に取って叫ぶ。
「綾子はママの経験があるからこういうのに詳しくて心強いな」
「うん、理人の時もこの店の物を使っていたのよ。質もいいし上品でしょう?」
「そうだな。でもよー男の子か女の子かわからない時は何色で揃えるんだ?」
仁が素朴な質問をする。
「子供の性別をあえて聞かないまま出産する場合はどちらにでも使えるような白や黄色で揃えるの。でも性別がわかっていたらそれに合わせて買うのが普通かなー」
「ん-俺は生まれるまで性別は知らない方がいいなー、なんかその方がワクワクしないか?」
「私もその方が楽しみかも!」
「じゃあそうするか」
「うん。ちょっとあっちも見て来ていい?」
「もちろん」
綾子が嬉しそうに奥の棚へ向かうのを仁は頬を緩めて見ている。
その後ふと近くの棚を見ると小さなベビーシューズが目に留まる。
(マジか? こんなに足がちっちゃいのか?)
仁はびっくりしてその靴を手に取ると手のひらに乗せる。
小さなベビーシューズは仁の大きな手のひらにちょこんと乗った。
「そちらは昨日入荷したばかりの新作でございます」
店員がにこやかに話しかけて来た。
「どうも! でもこれって歩けるようになってから履くやつですよね?」
「はい。ただ生まれる前からお守り代わりに買う方もいらっしゃいますよ。家に飾っておいて生まれて来る日を心待ちにするんです」
「なるほどねー」
「おひとついかがですか?」
「色はピンクだけ?」
「いえ、ブルーもございます」
「じゃあブルーを貰おうかな」
「ありがとうございます。奥様のお買い物とご一緒になさいますか?」
「一緒にしてもらおうかな、綾子!」
「なあに?」
「欲しい物があれば持っておいで」
「ううんまだいいわ。揃えるのは安定期に入ってからにするわ。今日は見るだけ」
その時綾子は店員が手にしている小さなブルーの靴に気付いた。
「それを買うの?」
「うん、気に入ったから」
「ブルーで?」
「うん、青い方がピンときた」
「フフッ、でも女の子だったら?」
「女の子がブルーを履いたっていいだろう?」
「それはそうだけど……」
「じゃあすみません、それをお願いします」
「ありがとうございます、ではこちらへどうぞ」
仁は会計に向かった。
(やっぱり男の子がいいのかな?)
綾子はクスッと笑いながら仁の後を追いかけた。
コメント
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元夫の悪事が暴かれて報道され、浮気相手だった白鳥ほのかも 女優生命の危機.... そして仁ちゃん原作のドラマは大ヒットを記録.❣️ 漸く平和で穏やかな日常が戻ってきて、ベビー洋品を見に出かける二人。 ブルーのベビーシューズを選ぶパパ 仁ちゃんは、きっと理人くんが帰って来ることを確信しているのでしょうね👶🧸💙✨
ブルーの小さな靴🩵理人くんに預けておくのかなぁ?☺️赤ちゃんが無事に地上に降りてきてくれますように✨
全てが明らかになった今,穏やかに過ごす中でブルーのシューズとの出会い🥿仁さんは産まれて来る子が男の子で理人君の生まれ変わりと感じてるのかなぁ?