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夜の街灯が一本、蛍のように点滅していた。その下に、影が二つ。
ひとつは怯えて立ちすくむ遥。
もうひとつは、ゆっくりと近づいてくる颯馬だった。
「……なんか、楽しそうだったじゃん」
その声は低く、やけに穏やかだった。
だが、その穏やかさの奥にある温度は――熱すぎて、冷たかった。
「見たよ、昼。あんな顔できるんだな、お前」
遥は答えない。
ただ、喉の奥で息を詰まらせている。
それが“否定”なのか“恐怖”なのか、自分でもわからなかった。
颯馬が笑った。
「なぁ、教えてくれよ。あれ、誰といたんだ?」
返事をしない。
するわけにもいかない。
だが――沈黙そのものが、すでに彼の怒りを刺激する。
「“答えない”ってことは、やましいんだろ」
近づく足音が、砂利を踏む。
それだけで、遥の全身が強張った。
「……兄貴たちも言ってた。お前は、誰かの前では“人間のフリ”するって」
その声が耳の奥に沈む。
「俺はさ、そういうの、許せねぇんだよ」
颯馬の目に、狂気ではなく“生きる喜び”が宿っていた。
誰かを傷つけることでしか呼吸できない人間の目。
それは、光よりも真実だった。
「……お前を見てると、スッとするんだよ。なんでだろうな」
笑いながら、颯馬は遥の前髪を乱暴に掴んだ。
指先が皮膚に食い込む。
痛みよりも、“触れられた”という事実のほうが遥を焼いた。
「こっち見ろよ」
瞳が合った瞬間、遥は息を止めた。
その目の奥に、自分が映っている。
“人間”ではなく、“道具”のように。
「……お前のそういう顔、やっぱ好きだわ」
頬に何かが触れる。
冷たい空気が、割れたような音を立てる。
世界が一瞬で白くなり、すぐに黒に沈む。
笑い声が響く。
周囲には、颯馬と同じ制服の影がいくつもあった。
誰も止めない。
誰も目を背けない。
ただ、それぞれの顔に、生きている証のような笑みが浮かんでいた。
「ほら、謝れ。な?」
耳元で囁く声が、吐息ごとに肌を刺す。
「“生きててすみません”って言えよ。言葉にしねぇと、わかんねぇんだわ」
遥の唇が、かすかに動く。
喉がひっくり返りそうになりながら、吐き出した。
「……生きてて、ごめんなさい……」
その瞬間、颯馬の笑い声が静かに弾けた。
満足げに、幸福そうに。
夜風が吹き抜ける。
遥の世界だけが止まっていた。
彼を囲む影たちの笑い声は、
まるで“生き延びるための音楽”のように、闇の中に溶けていった。