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#読み切り
椅子に座ったまま、相談者は言った。
「俺、悪口聞く係なんですよ」
蓮司は目を上げる。
「係?」
「はい」
「誰に決められた」
「誰にも」
相談者は肩をすくめる。
「でもそうなってる」
「どういう感じ」
「みんな俺に言うんです」
「何を」
「悪口」
少し沈黙。
「例えば?」
「“あいつさ”って始まるやつ」
「うん」
「クラスの誰かの話」
「うん」
「最初は相談っぽい」
「うん」
「途中から悪口」
蓮司は黙って聞く。
「で」
「うん」
「俺は聞くだけ」
「何も言わない?」
「言わない」
「なんで」
「安全だから」
「安全?」
「反対すると面倒」
相談者は笑う。
「同意すると危ない」
「確かに」
「だから」
「うん」
「聞くだけ」
少し沈黙。
「それで困ってる?」
「うん」
「どこが」
相談者は机を見る。
「なんか」
「うん」
「ゴミ箱みたい」
静かになる。
「吐き出す場所」
「うん」
「俺に言えば終わり」
「うん」
「で、次の日普通に仲良くしてる」
「言ってた相手と?」
「そう」
蓮司は少し息を吐く。
「よくある」
「よくあるんだ」
「ある」
相談者は苦笑する。
「俺だけじゃないんだ」
「多い」
沈黙。
「でも」
相談者は言う。
「俺、誰の悪口も言ってないのに」
「うん」
「一番聞いてる」
蓮司は頷く。
「それな」
「なに」
「悪口聞く人って」
「うん」
「信用されてるんだよ」
相談者は顔を上げる。
「え?」
「この人は」
蓮司は言う。
「言い返さない」
「……」
「広めない」
「……」
「怒らない」
「……」
「だから言う」
相談者は少し黙る。
「それ」
「うん」
「いいこと?」
「半分」
「半分?」
「信頼」
「うん」
「でも」
「うん」
「都合のいい安全地帯」
相談者は笑う。
「そっちの方がしっくりくる」
沈黙。
「あと」
蓮司が言う。
「もう一個ある」
「何」
「聞いてると」
「うん」
「疲れない?」
相談者は即答する。
「めちゃくちゃ疲れる」
少し笑う。
「なんか」
「うん」
「汚れる感じ」
蓮司は頷く。
「それ普通」
沈黙。
「じゃあ」
相談者が言う。
「どうすればいい」
「簡単」
「うん」
「一回」
「うん」
「“それ本人に言えば?”って言う」
相談者は固まる。
「え」
「大体」
蓮司は言う。
「それで止まる」
「マジで?」
「マジ」
少し間。
「なんで」
「悪口って」
蓮司は言う。
「安全な場所でしか出ない」
相談者は黙る。
「安全じゃなくなると」
「うん」
「言わない」
相談者は小さく笑う。
「俺」
「うん」
「安全地帯だったんだ」
「だった」
少し沈黙。
相談者は立ち上がる。
「でも」
「うん」
「ゴミ箱よりはマシか」
ドアの前で振り返る。
「次来たら言ってみます」
「何を」
相談者は少し笑う。
「“本人に言えば?”」
蓮司は頷く。
人は、
安全な場所にだけ本音を捨てる。