テラーノベル
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放課後。
教室にはまだ何人か残っていた。
笑い声。
机を動かす音。
窓の外では運動部の声が響いている。
どこにでもある放課後。
遥は鞄にノートを入れる。
手順はいつも同じ。
順番も同じ。
変えない。
変える理由がないから。
視線を上げる。
教室の入り口。
日下部が立っていた。
遥はすぐに目を逸らす。
見なかったことにする。
それが一番面倒が少ない。
「遥」
呼ばれる。
返事はしない。
鞄のファスナーを閉める。
「少し話せるか」
静かな声。
遥は立ち上がる。
そのまま教室を出ようとする。
日下部が前に出る。
道を塞ぐつもりではない。
でも結果として塞いでいる。
「五分だけ」
「無理」
即答。
「じゃあ三分」
「無理」
沈黙。
教室の空気が少し変わる。
周囲の人間が気づき始める。
遥はそれが嫌だった。
見られるのが嫌なんじゃない。
また始まるから。
人が関わると。
何かが変わると。
必ず。
「お前さ」
日下部が言う。
言葉を選びながら。
「最近」
止まる。
続きを探している。
遥はその沈黙が嫌いだった。
言いたいことがあるなら言えばいい。
助けたいなら助ければいい。
離れるなら離れればいい。
中途半端が一番嫌いだ。
「何」
少し強い声になる。
日下部が一瞬だけ黙る。
「無理してないか」
その瞬間。
遥は笑いそうになる。
笑えないけど。
あまりにも遅すぎて。
あまりにも今さらで。
「してたら何」
言葉が落ちる。
教室が静かになる。
日下部は答えない。
答えられない。
遥は続ける。
「どうすんの」
沈黙。
「また庇うの」
目が合う。
「また途中でいなくなるの」
日下部の表情が固まる。
遥は止まらない。
止まれない。
「前もそうだっただろ」
声は大きくない。
怒鳴ってもいない。
でも。
今まで飲み込んできたものが少しずつ滲んでいる。
「助けるみたいな顔して」
「違う」
日下部が言う。
即座に。
遥は首を振る。
「同じだよ」
「違う」
「同じ」
沈黙。
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周りが見ている。
でも、どうでもよかった。
「俺は」
日下部が言う。
少し掠れた声で。
「今度は離れない」
遥はその言葉を聞いて。
何も感じないはずだった。
嬉しくもない。
安心もしない。
信じてもいない。
なのに。
胸の奥が嫌なふうに揺れる。
だから余計に腹が立つ。
「勝手に決めるな」
小さく言う。
日下部が動かない。
「離れるかどうかなんて」
遥は視線を逸らす。
「お前が決めることじゃないだろ」
教室が静まり返る。
日下部は何も言わない。
言えない。
遥は鞄を掴み直す。
そして。
通り過ぎる。
今度は止められない。
日下部の横を通る。
肩が触れそうな距離。
でも触れない。
そのまま廊下へ出る。
足音だけが響く。
心臓がうるさい。
怒っているのか。
苦しいのか。
自分でも分からない。
ただ一つ分かる。
日下部が悪いわけじゃない。
たぶん。
でも。
だからといって。
簡単に近づいていいわけでもない。
階段を降りながら。
遥は小さく目を閉じる。
助けられた。
それは事実。
でも。
助けられたことと。
救われたことは。
同じじゃなかった。
その違いを。
誰より自分が分かっていた。
コメント
1件
おお…すげえ重い空気がびしびし伝わってきたわ。遥の「無理してたらどうすんの」「また途中でいなくなるの」って問い詰め方、過去に裏切られた傷がにじみ出てて胸が締め付けられた。日下部の「今度は離れない」も本気っぽいけど、遥が簡単に信じられない気持ち、痛いほど分かるよ。助けられたことと救われたことは違うって最後の気づき、切なすぎる…。続きがすごく気になる!