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ハルのプロポーズから数年。「ノイズ・パレス」は今や世界中のクリエイターや美食家が集まる聖地となっていた。しかし、当の二人は相変わらずだった。
ある朝、ハルがスタジオで新しいアルバムの構成を練っていると、リコがボロボロの「巨大なニワトリの着ぐるみ」で突入してきた。 「ハル! 大変だよ! 最高の『新作』ができちゃった!」 「……今度はなんだ。タチョ(ダチョウ)の卵の目玉焼きか?」 「違うよ。これだよ!」
リコが差し出したのは、一本の古いカセットテープ。そこには、二人がかつて高校の音楽室で録った、あのノイズだらけの処女作が収められていた。
「これ、デジタルリマスタリングして、今の『帝国』の音とマッシュアップさせない? 過去の私たちと、今の私たちがデュエットするの!」
ハルはそのアイデアに舌を巻いた。完璧を求めていたかつての自分なら拒絶していただろう。だが今の彼にはわかる。過去の未熟なノイズこそが、今の自分たちを形作っている最強のスパイスなのだと。
記念ライブの夜。ステージには、10年前の制服を着たホログラムの二人が映し出された。 「バカみたい」と笑いながらピザを食べる過去のリコ。 必死にレコーダーを向ける、青臭いハル。
そこに、今のハルが奏でる重厚なシンセサイザーと、今のリコの円熟味を増した歌声が重なる。 会場中の観客が、自分たちの「あの頃の青いノイズ」を思い出し、涙を流しながら踊り狂った。音楽は、時間さえも飲み込むフルコースへと進化したのだ。
ライブの幕が閉じる直前、リコがマイクを握り、いたずらっぽく笑った。 「みんな、今日はありがとう! でも、私たちのライブには、実はもう一人、隠れたパーカッショニストがいるんだよね」
ハルが首を傾げた瞬間、リコが自分のお腹にマイクを当てた。
――トクン、トクン、トクン……。
スピーカーから流れてきたのは、小さくて、でも力強い、新しい生命の鼓動。 「……リコ、お前」 「新しいノイズの担当、予約しといたから。ハル、この子のためのスコア、今から書き始めてよね!」
ハルは鍵盤を叩く手を止め、ステージの真ん中でリコを抱きしめた。 会場は、これまでのどのライブよりも大きく、温かい拍手という名のノイズに包まれた。
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