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階段下に転がった遥を見下ろして、数人の笑い声が重なった。
「おーい、マジで動けなくなってんぞ」
「ほら、手首。変な方向に曲がってね?」
「え、うそ、折れたんじゃね?」
近づいてきた三年の先輩が、靴先で遥の手を小突いた。
「ほら、どう? これ動く?」
「や、やめ……っ……痛い……ほんとに……」
遥は喉を押しつぶされたように声を震わせる。
「はぁ? 痛い? おまえの存在自体が痛ぇんだよ」
「泣き声キモいんだよ、誰も心配してねーから」
さらに別の後輩が加わり、笑いながら携帯を向けた。
「みんなー!“奴隷”折れましたー! ほら、撮っとけ撮っとけ!」
「やめろ、ほんとに……やめてくれ……」
「お前にやめる権利ねーだろ? 俺らが飽きるまでやんだよ」
遥がうずくまると、背中を蹴り上げられ、再び転がされた。背中に鋭い痛みが走り、思わず嗚咽が漏れる。
「っ……あ……痛い……もう……無理……」
だが声を上げた瞬間、数人が一斉に笑った。
「無理とか言ってんなよ! 無理は俺らだわ! お前見てると腹立つから」
「おい、松葉杖用意してやれよ! ほら、モップでも突っ込めばいいんじゃね?」
「てか、犬の四つん這いの方が似合ってんじゃねーの?」
遥の震える声が、空気を割った。
「どうして……どうして……ここまで……」
「は? まだ分かんねーの? お前がいるだけで学校が汚れんだよ」
「そうそう、“いる理由”とか聞かれてもね。いらないんだって、答えは」
「だから折れてても這って来いよ。逃げるなよ」
別のクラスの女子が通りかかり、スマホを構えて声を上げた。
「やだ、またやってんの? すごーい、今日の奴隷くんニュース!」
「うわ、顔めっちゃ腫れてるし!」
「かわいそう〜って言っとけばいいんでしょ? はい、かわいそー」
笑い声が重なり、教室の外からも覗く生徒が増えていく。
遥は声を詰まらせながら、かすれ声で吐き出す。
「もう……分かった……ごめん……生きてて、ごめん……」
「おー出た出た、必殺“生きててごめんなさい”」
「謝って済むなら警察いらねーんだよ、なぁ?」
「お前は謝るんじゃなくて、壊され続ける係。忘れんなよ」
痛みと嗤いが混じる空間の中で、遥の意識は白く霞んでいった。