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中学一年生・仮名:Nさん
「好きなものは?」と聞かれると、
答えられません。
嫌いなものはすぐ浮かぶのに、
好きなものになると
急に分からなくなります。
周りの人は、
好きな音楽や趣味を
普通に話していて、
ちゃんと“自分がある”感じがします。
それに比べて自分は、
何もない気がしてしまいます。
無理に答えると、
なんとなく違う気もして、
余計に分からなくなります。
こういうのって変なんでしょうか。
遥
「変ではない」
即答に近い。
蓮司
「むしろあるある」
Nさん
「そうなんですか」
日下部
「“好き”という言葉を
重く捉えすぎている可能性がある」
Nさん
「重く」
遥
「“本当に好きなものを答えなきゃ”ってなってる」
Nさん
「……はい」
蓮司
「それやると出てこなくなる」
Nさん
「出てこないです」
遥
「好きって」
少し考える。
「そんなにはっきりしたものばかりじゃない」
Nさん
「でもみんなすぐ答えてます」
蓮司
「わりと適当だぞ」
Nさん
「適当」
遥
「“最近よく聴いてる曲”とか」
蓮司
「“なんとなく好きなやつ”とか」
日下部
「“今の自分にとって心地いいもの”を答えている場合も多い」
Nさんは少し黙る。
「でも」
小さく言う。
「自分にはそういうのもあまりなくて」
遥
「ゼロではないと思う」
Nさん
「え」
蓮司
「完全に何も好きじゃない人、ほぼいない」
遥
「ただ」
少し言葉を選ぶ。
「“好き”って認識してないだけ」
Nさん
「認識」
日下部
「例えば」
静かに言う。
「気づいたら触っているもの、繰り返し見ているもの」
Nさん
「……」
遥
「無意識に選んでるもの」
蓮司
「それ、だいたい好き寄り」
Nさん
「でもそれって」
少し迷う。
「ちゃんとした“好き”じゃない気がします」
遥
「“ちゃんとした好き”って何だ」
Nさん
「……」
蓮司
「好きに資格いらないぞ」
Nさんは少し笑う。
日下部
「“強い熱量”だけが好きではない」
遥
「弱い好きもある」
蓮司
「むしろそっちの方が多い」
Nさん
「弱い好き」
遥
「なんとなく落ち着く
なんとなく楽しい
なんとなく繰り返す」
少し間。
「それで十分」
Nさんは考える。
「じゃあ」
ゆっくり言う。
「“特にない”って答えるのはダメですか」
蓮司
「ダメじゃない」
遥
「ただ」
少しだけ視線を上げる。
「それで終わると会話が終わる」
Nさん
「……確かに」
日下部
「質問の意図は情報というより会話のきっかけであることが多い」
遥
「だから」
少し軽く言う。
「軽く返せばいい」
Nさん
「軽く」
蓮司
「“最近はこれ”でいい」
遥
「“前はこれ好きだった”でもいい」
日下部
「固定された答えである必要はない」
Nさんは少し安心した顔になる。
「変わってもいいんですね」
遥
「むしろ変わる」
蓮司
「昨日と今日で違っても普通」
Nさん
「……」
少し考える。
「好きなものがないって」
小さく言う。
「空っぽみたいで嫌でした」
遥
「空っぽではない」
蓮司
「気づいてないだけ」
日下部
「もしくは言葉にしていないだけ」
Nさんは立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「ちゃんとした好きじゃなくてもいいんですね」
遥
「十分」
蓮司
「むしろそっちが普通」
日下部
「小さな好みの積み重ねがその人らしさになる」
Nさんは小さく頷いた。
ドアが閉まる。
蓮司が言う。
「“好きが分からない”って自己否定入りやすいよな」
遥
「基準高すぎなんだよ」
日下部は静かに言う。
「人は」
少し間。
「強い感情だけでできているわけではない」