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#読み切り
ruruha
656
ゆうまる
121
歩いているだけで、始まる。
「おい、動くな。
――あ、もう動いてたか。反抗?」
背中に当たる衝撃。
前につんのめる。
「拒否したんだろ?
なら“罰”が要るよな」
誰かが笑う。
「だってさ、ルール破ったのはこいつじゃん」
「拒否=空気読まない、だろ?」
「場を壊した責任」
窓が開く音。
次の瞬間、遥の私物が外に消える。
「一点」
「次、何投げる?」
「全部いく?」
遥は息を吸って、吐く。
声が震えないように、言葉を選ぶ。
「……違う。
拒否した=同意してないって、言っただけだ」
間。
「は?」
「何その理屈」
笑いが重なる。
「同意してないなら、最初から拒否しろって話」
「拒否しただろ?」
「じゃあ罰だろ」
また衝撃。
「ほら、理屈合ってる」
「拒否した“事実”がある」
「だから正しい」
遥は歯を食いしばる。
「……受け入れてない。
怖くて動けなかっただけだ」
「震えてただけ、ってやつ?」
「それってさ」
「拒否じゃなくね?」
誰かが肩を掴む。
「抵抗したよな?」
「したから、こうなってる」
「しなきゃ、もっと楽だったのに」
窓の外へ、また一つ。
「次は“思い出点”高いのいこ」
「壊れたら減点な」
「いや、壊れたら加点だろ」
遥は目を伏せて、でも言う。
「……抵抗したからって、
同意したことにはならない」
一瞬、静かになる。
そして。
「めんどくさ」
「まだ言う?」
誰かが囁く。
「公開な。
みんなに見せよ。
“拒否したやつの末路”」
輪ができる。
視線が刺さる。
「ほら、説明してみ?」
「ちゃんと考えてるんだろ?」
「どうして拒否した?」
遥は喉を鳴らす。
「……嫌だった。
それだけだ」
「理由、弱っ」
「感情かよ」
「じゃあ却下」
格闘技の話題が混じる。
「今日さ、締めの練習してきた」
「サンドバッグ足りねえんだよ」
「ちょうどいいのいるじゃん」
「人じゃないしな」
「教材」
「的」
笑い。
遥の胸に、黒いものが広がる。
自分が悪いのか?
でも、必死に否定する。
「……抵抗したから、
酷くしていい理由にはならない」
即座に返る。
「なる」
「抵抗=挑発」
「挑発=許可」
「ほら、ロジック完成」
また私物が飛ぶ。
「残り何点?」
「ゼロになるまでやろ」
遥は小さく笑ってしまう。
自己嫌悪が、喉まで上がる。
(ちゃんと考えた。
ちゃんと拒否した。
それでも、これか)
「……分かった」
一斉に顔が向く。
「分かったって?」
「同意?」
遥は首を振る。
「違う。
分かったのは――
拒否したら、罰になる世界だってこと」
「正解」
「やっと理解した」
誰かが肩を叩く。
「じゃ、続行な」
笑い声。
割れる音。
数を数える声。
遥は人として数えられていない。
それでも、心の奥で、同じ言葉を繰り返す。
(同意してない)
(受け入れてない)
(拒否した)
それが、また罪になると分かっていても。
コメント
1件
うわ……これ、読んでてすごく息が苦しくなった。拒否=同意しないの意味を、相手が“罰”のロジックでねじ曲げていく、あの空気。遥が必死に「違う」って言い続けてるのに、笑い声と輪の中にどんどん呑まれていく描写が、読んでるこっちまで痛かった。「抵抗=挑発」「挑発=許可」って繋がれる怖さ、まさに言葉の暴力だな。第30話、まだ30話だからこれからどうなるかすごく気になる。この理不尽な世界、どうやって遥が抜け出すのか(あるいは抜け出せないのか)、そこが気になる。