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放課後の教室。窓から差す夕日が、やけに赤く見えた。机を寄せられた中心で、遥と日下部は並べられていた。
取り囲むクラスメイトたちは、笑いをこらえきれない顔。
「なあ、今日は特別に教えてやるよ、日下部」
前に立つ男子が、わざと芝居がかった声を出す。
「お前さ……知らなかっただろ?」
「何を……」と日下部が眉を寄せた瞬間、別のやつが机を叩いて笑いだす。
「こいつな、毎日のように頭下げてんだよ。“日下部には触るな”ってな」
遥の肩がびくりと震えた。
「や、やめろ……」
掠れた声は、誰にも届かない。
「マジだって。床に額こすりつけて、涙と鼻水だらけでさ」
「“俺がなんでもするから、日下部はやめてくれ”だって。哀れすぎて笑えるよな?」
日下部の目が大きく開かれた。
「……遥、お前……」
「違っ……言うな……!」
遥は必死に首を振った。だが、加害者の声は止まらない。
「昨日はすごかったぞ。“どうしても日下部に触るなら、俺を殺してからにしてくれ”ってさ。震えながら言ってんの。なあ、覚えてるよな?」
「やめろって言ってるだろ!!」
遥の声が裏返る。
それさえも笑いの種になった。
「ほら見ろ! 図星だ!」
「おい日下部、どう思う? こいつ、お前のためにここまで惨めに土下座してんだぜ?」
日下部は、目を逸らせなかった。
隣でうずくまる遥の背中、その強張った拳。
声を殺して震える唇。
「……なんで……俺に黙ってた」
呟きは遥に届かない。加害者の声がかき消す。
「守りたい? 笑わせんなよ。守るつもりがあるなら、もっとマシにやれよな?」
「結果どうだ? お前のせいでこいつも巻き込まれてんじゃん」
嘲りと嘲笑。
遥の顔は蒼白で、視線を上げられない。
「日下部……聞くな……聞かないでくれ……」
必死の懇願。だが、その声も弱すぎた。
「隠しても無駄だって。もうバレたんだからな」
「なあ日下部、これからはどうするよ? お前を守るために遥は何でもするってさ。利用しない手はねぇだろ?」
笑い声が再び広がる。
遥の肩が小刻みに震える。
日下部は、唇を噛み、拳を握りしめた。
――初めて知った。
遥がどれだけ惨めに自分を守ろうとしていたのか。
そしてその行為が、彼をどれほど傷つけていたのか。
しかし、その痛烈な真実は、加害者の笑いの中で容赦なく踏みにじられていた。