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机の上に置かれた手紙を、斗真は何度も眺めていた。
「どうして、言えないんだろう」
小さな声で呟く。年上の後藤に、好きだと伝えたいのに、勇気が出ない。
後藤は同じ職場の先輩で、いつも落ち着いていて、近寄りがたい存在だった。
斗真は年下で、経験も乏しく、ただ後藤の笑顔に心を揺さぶられる毎日。
ある夜、残業が終わり二人だけになったオフィス。
「……斗真、まだ残ってたのか」
後藤の声は低く、けれどどこか柔らかい。
「は、はい……ちょっとだけ、資料整理を」
斗真はうつむき、手紙を握りしめる。
「……これ、俺に?」
不意に手紙を握る手を後藤に捕まれ、胸が高鳴る。
「……あ、いえ……」
顔が熱くなる。見透かされているようで、言葉が出ない。
後藤はそっと手紙を広げた。斗真の筆跡、震える文字が夜の光に揺れる。
「……斗真、これ……」
「……す、好きです……」
小さな声で告げると、後藤は息を詰め、間を置いた後、近づいてきた。
「……我慢してたのか?」
「……はい……」
距離が縮まり、後藤の手が斗真の顎を持ち上げる。
その指先は冷たいのに、触れる肌がじんわり熱い。
「……俺のこと、どれだけ……」
唇を重ねられ、斗真の体は震えた。
「あ、あの……っ」
「黙ってろ。声なんて出さなくていい」
後藤の唇は熱く、舌は慎重に、しかし確実に斗真の唇をなぞる。
押し倒されるようにデスクに背中を預ける。
服越しの胸に触れられると、体が自然に反応する。
「……っ、後藤先輩……」
「名前、もっと言え」
その命令に震える声を漏らし、斗真は恥ずかしさと快感で顔を赤くする。
後藤は焦らすように唇を離し、指先で耳や首筋をなぞる。
「……我慢してたんだろ?」
「……っ、はい……」
「なら、今夜は全部、俺が教えてやる」
服越しに触れられ、身を委ねるしかない斗真。
熱と息の重なり、鼓動の高鳴りに心を揺さぶられ、手紙では伝えられなかった想いが、今、体で交わされていく。
夜が更けるほど、後藤の無言の指導と口づけに、斗真は甘く震え、名前を何度も呼ぶ。
「……斗真、いい子だ」
その声が、胸に深く刻まれる。
――翌朝。
斗真は手紙を握りしめたまま、ふと笑った。
届かなかったはずの気持ちが、夜の中で届いていたことを知ったから。
後藤は少し照れくさそうに、でも誇らしげに背中を撫でる。
「もう、我慢しなくていい」
斗真は微笑み返し、手紙をそっと胸にしまった。
届かないと思っていた手紙は、夜の静寂の中で、確かに届いたのだ。