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放課後の廊下は、部活に向かう生徒たちの声でにぎやかだった。
その中を、隼人はひとり早足で歩いていた。目的はただ一つ――柊と直接話をつけること。サプライズ同盟が散々ひねった作戦は、ことごとく柊に逆手に取られている。こうなったら正面突破しかない。
音楽室前。
柊はギターケースを肩にかけ、出てきたところだった。軽く手を振る。
「よう、隼人。何か用?」
その飄々とした笑顔に、隼人は胸の奥がむずむずする。
「……なあ、誕生日当日の予定さ。ゲーセンと映画、ほんとに絶対なのか?」
「ん? 大地が乗り気だからね。まあ、確定でしょ」
柊はあっけらかんと答える。
「その……もうちょい時間、空けとけない?」
「ふーん、なんで?」
「いや、その、まあ……」
言葉が喉につかえた。理由を言ったらサプライズがバレる。でも黙っていても伝わらない。隼人は内心で何度も深呼吸を繰り返した。
柊は首をかしげながら、わずかに笑みを深めた。
「もしかして隼人、嫉妬してる?」
「なっ……!」
思わず声が裏返った。耳が熱くなる。
「ち、違うし!」
「へえ?」
からかうような声。柊の目が細く笑う。
「ま、時間は……無理かな。大地、楽しみにしてるし」
軽く手を振り、柊は階段へ。
隼人はその背中を見送りながら、拳を握りしめた。
(くそ……話せば何とかなると思ったのに!)
――その夜。
自室でベッドに転がりながら、隼人はスマホを握りしめていた。
グループLINEには、柊と大地の楽しげなメッセージが流れ続けている。
大地:『明日のゲーセン、何時集合?』
柊:『午後イチ!映画はその後!』
「……くっそぉ」
思わず声が漏れる。
通知が震えた。萌絵から個別チャットだ。
萌絵:『直談判は?』
隼人:『玉砕。柊マジ鉄壁』
萌絵:『ドンマイ。こっちはケーキの準備OK』
続いて涼からも。
涼:『大地、ほんと気づいてないな。かわいい』
隼人:『かわいいとか言うな。余計モヤる』
隼人は天井をにらむ。
(大地のやつ、なんであんなに無防備なんだよ。柊と二人で映画とか、気にしないのか? ……俺が気にしすぎ?)
胸の奥に、説明できないざわめきが広がる。
ただ友達として、特別な一日を祝いたい――そう思っているはずなのに。
不意にスマホが震えた。
大地:『隼人、今日元気なかった?』
心臓が跳ねる。
隼人:『べつに。ちょっと眠いだけ』
大地:『そっか。明日、楽しみだな!』
何気ない言葉が、かえって胸を締めつけた。
(ああもう……楽しみにしてるって、俺の計画じゃなく柊との予定のことだよな)
クッションに顔を埋めて転がる。
サプライズの準備は万端のはずなのに、気持ちは空回りするばかりだ。
――翌朝。
教室の窓から差し込む光が眩しい。
隼人が席に着くと、すぐに萌絵と涼がやって来た。
「顔、寝不足?」
萌絵が覗き込む。
「うるせえ」
隼人は小声で返す。
涼が肩をすくめながら言った。
「まあでも、今日がヤマ場だろ。柊をどう動かすか」
「……正面突破で行く」
「また?」
「昨日失敗したけど、まだ終わりじゃねえ」
その時、教室のドアが開き、柊と大地が一緒に入ってきた。
大地はいつもの笑顔で「おはよー!」と手を振る。
隼人は反射的に笑顔を作るが、胸の奥のモヤモヤは消えない。
(今日こそ――何としても仕掛ける。サプライズ、絶対成功させてみせる)
強く決意を刻みながら、隼人は拳を握りしめた。