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その夜、沙夜はベッドの上でなかなか眠れずにいた。
長年可愛がってきた後輩が自分を憎んでいたと知り、さらにその後輩が処罰に近い転属を命じられた末、会社を辞めたと聞かされた。
もし彼女があのまま秘書室に残っていたら――沙夜や大切な家族に危害が及んでいた可能性がある。
そう思えば、これでよかったのかもしれない。
それでも、素直に喜ぶ気持ちにはなれなかった。
複雑な思いを抱えたまま、沙夜は静かに寝返りを打つ。
幸い、最近は彗の授乳間隔が少しずつ長くなっていた。
今夜も授乳を終えると、すぐに深い眠りに落ちてくれた。
おそらく、明け方まではぐっすり眠ってくれるだろう。
沙夜は横になったまま、ぼんやりと窓の外に浮かぶ月を眺めた。
満月に近い月が、静かに煌々と夜空を照らしている。
司は今夜、接待で遅くなる。
明日は休日なので起きて待っていてもよかったが、疲れて帰ってきたときに余計な気を遣わせたくなくて、沙夜は先にベッドへ入った。
(やっぱり眠れない……)
眠ろうとすればするほど、かえって目が冴えてしまう。
あれから、夫婦の間には何もなかった。
産後しばらく経ち、医師からは夫婦の営みを再開してもよいと言われていたが、司の方からは何も言ってこない。
おそらく、沙夜の体を気遣ってくれているのだろう。
しかし――あちらの世界で司の本心を知ってしまった沙夜にとって、今の夫は以前にも増して愛すべき存在だった。
結婚したばかりのころとは違い、司に対する興味も、親しみも深まっている。
あの日、キスを交わして以来、沙夜は司との触れ合いを望むようになっていた。
けれど司の方からは何のリアクションもなく、沙夜は悶々とした日々を過ごしていた。
そのとき、玄関の方で物音がした。
司が帰ってきたようだ。
沙夜は慌てて眠ったふりをする。
手洗いとうがいを済ませた司が、静かに寝室に入ってきた。
上着を脱いでクローゼットの横に掛けると、まず彗が眠るベビーベッドへ近づき、息子の寝顔を優しく見つめた。
しばらく微笑みながら眺めていた司は、今度は沙夜のベッドのそばへ歩み寄る。
沙夜はしっかりと目を閉じ、眠っているふりを続けた。
すると司は、ほっとしたように息をつき、音を立てないように寝室を後にした。
ドアがぱたんと閉まった瞬間、沙夜はそっと目を開けた。
そして、急にこの穏やかで平和な日々への感謝が胸いっぱいに押し寄せてきた。
誠実で優しい夫。
頼もしい義理の父と実の父。
今では本当の母のように接してくれる義母・美智子。
家族の一員のような家政婦の山下。
そして忘れてならないのは、あちらの世界にいた司の母と、沙夜の母。
二人のことを思い出すと、今でも涙がこぼれそうになる。
(みんなに支えられて、私はこうして穏やかな日々を過ごせているのね)
窓の外に浮かぶ明るい月を眺めながら、沙夜は胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
いつの間にか、うとうとしていたらしい。
ベッドがふわりと沈む気配で目を覚ますと、シャワーを浴びた司がそっとベッドに入ってきたところだった。
「ごめん、起こしちゃったね」
気持ちよくまどろんでいた沙夜は、眠たげな声で無意識に答えた。
「……大丈夫よ。おかえりなさい」
「ただいま」
「会食はどうだった?」
「いい感じだったよ。またうちに協力してくれる頼もしい企業が現れた」
「それはよかった……」
沙夜は眠気に負けそうになりながら、なんとか返事をする。
まぶたが重くなり、ふたたびうとうとし始めたそのとき――
頬に、ふわりと柔らかいものが触れた。
司の優しいキスだった。
チュッ チュッ
司は笑顔を浮かべながら、沙夜の耳や頬に優しいキスを落とす。
「や……ん……くすぐったい」
「沙夜の甘い匂い……落ち着く……」
「ふふっ……」
半分目を閉じたまま、沙夜は無意識に司の首へ両腕を回した。
その瞬間、司の体がわずかに硬くなる。
沙夜が気づいたときには、司がぴたりと寄り添い、彼女の唇をそっと奪った。
「んっ……」
それが本格的なキスだと気づいたとき、沙夜はすっかり目が覚めていた。
優しいキスは次第に深まり、彼女の胸の奥には温かな満足感が広がっていく。
――自分は愛されている。
そうはっきりと感じられるキスだった。
司は沙夜を抱き寄せながら、彼女の体を優しく撫で始める。
その触れ方は、あの見合いの日に感じた情熱と同じ熱を帯びていた。
沙夜はたまらなくなり、恍惚とした表情で身を委ねていく。
自分が求めていたものを、今、司は与えてくれている――
そう思うと、感動で胸が震えた。
そのとき、司が耳元で囁いた。
「もう……大丈夫だよね?」
「……ええ」
「大切に抱くから……いいね?」
「……はい」
沙夜は恥ずかしそうに、小さくうなずいた。
二人の呼吸はぴたりと合っていた。
まるでずっと前から、こうして寄り添うことが決まっていたかのように、自然に重なり合う。
司の巧みな愛撫に沙夜は切ない声を上げ、夫の背中にそっと爪を立てる。
途切れることのない司の情熱に包まれながら、沙夜の声は徐々に大きくなる。
やがて二人は、同じリズムをゆっくりと刻み始めた。
「あ……んっ」
これまで感じたことのない快感が沙夜の全身を襲った。
その悦びに、沙夜の体が大きくしなり、ピクッと震えた。
二人の呼吸はさらに激しくなり、徐々に上へと昇りつめていく。
次の瞬間、司は突然動きを止めると、ナイトテーブルに手を伸ばし避妊具を取り出した。
沙夜が不安げな視線を向けると、司は安心させるように言った。
「君をもう二度と危険な目には合わせたくないんだ」
その思いやりに満ちた言葉に、沙夜の胸がじんと熱くなる。
しかし、自分がひとりっ子だったこともあり、彗には兄弟を作ってあげたい――そんな思いがあったのも事実だ。
沙夜は勇気を出して、司に伝えた。
「ありがとう……。でも、彗には兄弟を作ってあげたいの」
「分かってるよ。でも、今はまだ早い。君の体がもう少し回復してからでも遅くはないさ」
その言葉に深い安心感を覚えた沙夜は、司のたくましい胸にそっと抱きつく。
妻の甘えるような仕草を初めて見た司は、優しくキスを落としながら耳元でこう囁いた。
「沙夜、愛してるよ……」
「私も……」
「僕は見合いの前からずっと、君のことを想っていたんだ」
「えっ?」
それは、司からの初めての愛の告白だった。
「見合いの一か月前だったかな……。財前中央銀行に行ったとき、ロビーで花を活けている君に、僕は一目惚れしたんだ。それで、君との見合いを急いだんだ……」
「そうだったのね……」
「ああ。君には好きな人がいるって聞いたけど、そんなことはどうでもよかった。僕は必ず君と一緒になる……そう心に決めていたからね」
司は少し照れたように微笑む。
沙夜は思わず胸が熱くなり、夫に尋ねた。
「だから、初対面なのにあんなことを……?」
「そうだよ。一日も早く君を自分のものにしたかった。でも、その結果、君をあんな危険な目に遭わせてしまった……今では後悔してるよ」
司が自分を見初めてくれていた――その事実を知り、沙夜の胸は感動でいっぱいになる。
「ようやく、また君とひとつになれる……ああ、沙夜、愛しているよ」
「私も……愛しています」
従順な妻を前に、司は嬉しそうだ。
そして、二人は再びひとつになった。
司の一挙一動には、妻を慈しむ気持ちが溢れていた。
沙夜はこれまでに感じたことがないほどの快感に飲み込まれていく。
愛し合う二人の行為は、美しく、深く、このうえない喜びに満ちていた。
やがて二人は、ゆっくりと同じリズムを刻み始めた。
そして、徐々に高みへと昇りつめていく。
クライマックスを迎える瞬間、司は沙夜を力強く抱きしめ、彼女の唇に熱いキスを落とす。
司の深い愛情に包まれながら、沙夜の全身は、愛される歓びで満たされていった。
コメント
9件
司さんとさよちゃんの熱い夜…私も満たされた♥♥♥幸せな気分♥♥♥
何度も読み返して私も幸せを感じています🥹司さんのお母様沙夜ちゃんのお母様が天国から見守っている そして司さんのお祖母様お父様 山下さん沙夜ちゃんのお父様お義母様皆さんの温かい愛情に包まれて 彗君もすくすく成長してる💗👶🏻 司さんもお見合い前から沙夜ちゃんに 恋心を抱いて結ばれた二人🥰 辛い事も悲しい事も苦しかった事も 乗り越えて来ましたもんね😭 司さんと沙夜ちゃんは深愛溢れてます
幸せだね〜♡⁺。.(*˘( ˃ ᵕ ˂,,*).。⁺♡ 想いが通じ合ってからの行為は、愛に満ち溢れている。 あちらの世界の皆様も、ほっとしている事でしょう。 感謝する気持ち、愛する気持ち、優しい気持ち… そんな気持ちの大切さを考えさせられる回でした🌛⋆゜