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――白い光が、音もなく世界を包んでいた。
そこは、真白が何度も夢で訪れた場所。
だが今はもう“夢”ではないと、彼は知っていた。
現実と夢の境界が溶け、魂だけが辿り着く場所――約束の庭。
彼は歩いていた。
霧の奥に見える光を、迷いなく目指して。
そこに、彼がいると分かっていた。ずっと、探し続けてきたその人が。
光の中心で、アレクシスが立っていた。
金の髪が、風にほどけるように揺れている。
真白を見つめるその瞳は、懐かしさではなく、確信に満ちていた。
「……来たんだな」
アレクシスの声は、優しく震えていた。
真白は、ゆっくりと頷いた。
「うん。僕、やっと……ここまで辿り着いた」
言葉とともに、胸の奥が熱を帯びる。
涙ではなく、光のような痛み。それは記憶の奥に眠っていた“願い”の名残。
――前世の最期、彼を庇って倒れた瞬間、心の底で祈った。
どうか、もう一度、会えますように。
その祈りがいま、果たされている。
アレクシスは歩み寄り、真白の頬に触れた。
触れた瞬間、光の粒が二人の間に溢れ出す。
魂が再び交わる音が、世界の奥で静かに響いた。
「……俺は、おまえを探していた。
どんなに世界が変わっても、おまえの魂の光だけは見失わなかった」
その声が、胸に沁みるように届く。
「僕も……ずっと感じてた。
名前も思い出せなかったのに、心のどこかで君を探してた。
君がいないと、何も描けなかった」
アレクシスは、微笑んだ。
彼の瞳には、ようやく安らぎが戻っていた。
真白の指先がその胸に触れると、鼓動が確かに伝わってきた。
その音を、前にも聴いた気がした――命の終わり際、炎の中で。
「俺はあの時、何もできなかった。
おまえが俺を庇って……俺は生き延びてしまった。
その罪のまま、時を越えてここに来たんだ」
真白は首を振った。
「違うよ。僕は後悔してない。あの時、君を守れてよかった。
だって――君がいたから、僕はまた生まれ変われたんだ」
光が、ふたりを包み込む。
白い花が風に舞い、庭全体がゆるやかに色を変える。
アレクシスはそっと真白を抱き寄せた。
その抱擁は懐かしさよりも、永遠に続く安堵に満ちていた。
「もう、離れない」
「うん。僕も。もう二度と、君を置いていかない」
ふたりの声が重なると、庭が一瞬だけまばゆく輝いた。
それは再会の祝福でもあり、次なる別れの予兆でもあった。
真白は、アレクシスの肩に顔を寄せる。
彼の温もりが、確かに存在していた。
現実ではもう触れられないはずの命が、ここでだけは確かに息づいている。
アレクシスはそっと囁いた。
「おまえの魂は、ずっと光を描き続けてた。
だから俺は、それを追いかけてここまで来られたんだ」
真白は微笑む。
「君がいたから、僕は描けたんだよ」
言葉が消えるたび、空が淡く染まっていく。
夜明けのように、光の庭が揺らめく。
再会の時間は、永遠ではない。
だが、この瞬間だけは確かに存在している。
ふたりの魂がひとつに戻る、その刹那の輝きとして。
――ようやく、約束が果たされた。