テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
放課後。
空き教室。
日下部はコンビニのパンを机の端に置いたまま、課題を開いていた。
ドアが開く。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が入ってくる。
「昼まだですか」
「四時間目から時間止まってる」
「早く食べてください」
「その前に今日は?」
相談者は椅子に座る。
少し考えてから話し始めた。
「俺、『何でもいいよ』って言われるの苦手なんです」
日下部は顔を上げる。
「例えば?」
「お昼何食べるとか、どこ行くとか、班で決める時とか」
少し間。
「『何でもいいよ』って言われると、逆に困るんです」
日下部は頷く。
「何で」
相談者は苦笑する。
「俺が決めたやつ、本当は嫌だったらどうしようって思うからです」
教室が静かになる。
「決めたあと、『別にそこじゃなくてもよかった』とか言われたら」
少し間。
「申し訳なくなるし」
「なるほど」
日下部は少し考える。
「お前さ」
「はい」
「『何でもいいよ』って」
少し間。
「本当に何でもいいやつと、決めるのを人に任せたいだけのやつ、両方いる」
相談者は黙る。
「確かに。でも、見分けられないです」
「見分けるの難しいな」
日下部は笑う。
「だから俺なら」
少し間。
「二択にする」
相談者は首を傾げる。
「二択?」
「ラーメンと定食ならどっち?駅前とショッピングモールなら?」
短く言う。
「丸投げしない」
相談者は考える。
「それなら答えてくれる人、多いかも」
「多い」
日下部は頷く。
「あと」
「はい」
「『何でもいい』って言われると全部の責任を背負った気になるだろ」
相談者はすぐに頷いた。
「なります」
「でも」
少し間。
「選ぶ責任と、不満まで背負う責任は別」
相談者は止まる。
「え」
「相手が本当に嫌なら『それはちょっと』って言えばいい」
短く言う。
「言わなかったなら、その責任までお前一人のものじゃない」
相談者は黙る。
窓の外から笑い声が聞こえる。
「俺」
少し考える。
「全部満足させなきゃって思ってました」
「無理だ」
即答だった。
相談者は笑う。
「早いですね」
「十人いたら十人とも百点は無理」
相談者は頷く。
「だから」
日下部は言う。
「『何でもいい』って言われたら」
少し笑う。
「遠慮なく候補を出せ」
相談者も笑う。
「今度からそうします」
立ち上がる。
「ありがとうございました。パン、早く食べてください」
「そうだった」
「また忘れてましたね」
ドアが閉まる。
「何でもいいよ」が困るのは、選ぶことより、失敗する責任を一人で抱えようとしているからかもしれない。
本当は、選ぶことも、その結果も、一人だけの責任ではない。
コメント
1件
「何でもいいよ」が困る理由、すごくわかります。選ぶ側が全部の責任を背負ってしまう感じ、ありますよね。日下部さんの「選ぶ責任と不満まで背負う責任は別」っていう言葉、すごく沁みました。それでいいんだって、少し気が楽になりました。最後の「十人いたら十人とも百点は無理」も好きです。二人のやりとりが自然で、教室の空気が透けて見えるようでした🤍
#一次創作
ruruha
360
ruruha
440
ruruha
316
☘️
34