夜風がやわらかく頬をなでた。
誕生日サプライズの余韻を残したまま、隼人と大地は町はずれの小さな公園へ歩いていた。
遠くで花火大会の片付けを知らせるように、ドンと低い音が響く。
 ベンチに並んで腰を下ろすと、静けさが二人を包んだ。
足元の芝は昼の熱をゆっくりと手放していて、ほのかに甘い草の匂いがした。
 「さっきの告白、びっくりした?」
 隼人がそっと問いかける。
 大地は夜空を見上げたまま、肩をすくめる。
 「びっくりっていうか……なんか、前から分かってた気もする」
 「えっ、まじで?」
 「うん。隼人、顔に出やすいし」
 大地の笑い声が、涼やかな風に混ざった。
 隼人は頬が一気に熱くなるのを感じ、耳まで赤くなった。
けれど不思議と嫌じゃない。
むしろその無邪気さに、心の奥がじんわり満たされていく。
 しばし沈黙。
遠くの街灯が、風に揺れる葉を淡く照らしていた。
大地が少しだけ身体を傾け、隼人の肩に頭を預ける。
 「……こうしてると落ち着くな」
 大地の声が、ささやきのように近い。
 隼人の心臓が跳ねた。
隣から伝わる体温が、じわじわと胸の奥に広がる。
言葉が出ないまま、隼人はゆっくりと腕を回し、大地の手をそっと包んだ。
 そのとき、大地が顔を上げる。
月明かりが頬を淡く照らし、瞳の奥がきらりと光った。
 「……隼人」
 名前を呼ぶ声が、空気を震わせた。
 ふたりの視線が、自然に重なる。
夜の静寂に、鼓動だけが響く。
 隼人は思わず息を呑み、唇をわずかに開いた。
大地の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
時間が伸びて、世界が薄いフィルム越しのように柔らかくなる。
 そして――。
 唇が、そっと触れ合った。
 ほんの一瞬、羽のように軽い。
でも確かに温もりを持った、初めてのキスだった。
 隼人は目を閉じ、心臓が弾むのを感じながら、大地の微かな息づかいを受けとめる。
甘くて、少し切ない。
けれど何よりも優しい。
 そっと離れると、大地が照れくさそうに笑った。
 「……可愛いキス、ってやつ?」
 「う、うん。たぶん」
 隼人の声はかすれていたが、その瞳はまっすぐに大地を見ていた。
 大地は小さくうなずき、今度は肩に頭を寄せたまま、静かに呟く。
 「もう一回してもいい?」
 その問いに隼人は微笑み、目を閉じた。
夜空には新しい星が瞬き、ふたりだけの時間をそっと見守っていた。
 再び重なった唇は、さっきより少しだけ長く、温かく、
言葉よりも確かに、これからを約束していた。
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