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放課後の空は、透きとおった青がゆっくりと茜色へ溶けていく途中だった。
校門を抜けた隼人は、自転車置き場で待つ大地を見つけ、胸の奥がほっとほどける。昨日から付き合い始めた――そう頭で繰り返しても、まだ夢の中の出来事みたいだ。
「お、やっと来た」
いつもの笑顔。けれど隼人には、その口角の上がり方ひとつまで愛おしく映る。
「部活、長引いた」
「知ってる。俺、わざと早く来たし」
大地は悪戯っぽく目を細め、隼人のカゴにそっと紙袋を入れる。
「これ、今日の実験授業で余ったプリン。先生がくれた」
「……食べかけじゃないよな?」
「ばーか。新品」
二人並んでペダルを踏み出す。街路樹の影が長く伸び、風が頬を撫でた。
昨日の告白の余韻が、沈黙の中にゆっくり息づいている。隼人は言葉を探しながらも、結局ただ同じ速度で走ることが心地よかった。
商店街を抜け、川沿いの道に差しかかる。ふと大地がブレーキをかけ、橋の欄干に自転車を立てかけた。
「ちょっと寄ろうぜ」
夕陽が川面を金色に染めていた。遠くで子どもたちが水切りをしてはしゃいでいる。
大地は欄干に肘を置き、真剣な目で隼人を見た。
「……昨日のこと、夢じゃないよな」
隼人は一瞬、返事を飲み込む。風に髪が揺れた。
「夢じゃない。俺が大地を好きって言ったの、本気だから」
言いながら胸が熱くなる。
大地が笑った。その笑みはこれまでのどんなふざけ顔とも違って、まっすぐで優しい。
「俺もさ。隼人といると、何でも面白くなる。これからも……その、よろしく」
自然に肩が触れ合った。夕陽が二人の影をひとつに重ねる。
しばらく無言のまま、同じ景色を眺めた。川面を渡る風が、どこか祝福めいている。
「明日、萌絵と涼に言う?」
大地がぽつりと聞く。
「うーん……あいつら多分もう察してる」
「だよな」
想像しただけで、二人は同時に吹き出した。
笑いがおさまったとき、隼人は少し真面目な顔で言う。
「大地、俺さ。これからもケンカするかもしれないけど――」
「うん」
「そのたびに、ちゃんと話す。絶対、黙ったままにしない」
大地は隼人の目をまっすぐ見返した。
「俺も。隼人が隼人である限り、ずっと隣にいる」
その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
隼人は思わず笑って、「じゃあ、帰るか」と自転車にまたがった。
二人でペダルを踏み出す。風は少しひんやりしているのに、心はやけにあたたかかった。
夕暮れが夜に溶けるまで、二つの自転車の影は重なったまま伸びていく。