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相談者は座ってすぐ言った。
「期待されると、壊したくなる」
蓮司は特に驚かない。
「壊すって?」
「提出わざと遅らせる。やればできるのに雑に出す。頼まれたこと忘れたふりする。成功しそうになると、急にどうでもよくなる」
「自分を落とす方向に動く」
「そう。褒められた直後が一番やばい」
少し沈黙。
「なんでだと思う」
「分かってたら来てない」
「分かってるけど認めたくないだけだろ」
相談者は黙る。
「期待されると、お前の価値が“成果”に固定される気がする」
「……」
「次もできる前提になる。できなかったら価値が落ちる気がする」
「そうだよ」
声が少し荒い。
「だから先に壊す。自分の意志で下げる。“失敗した”じゃなくて“やらなかった”に変える」
相談者は目を逸らす。
「やらなかったなら、まだ本気出してないって言い訳できる」
「核心つくな」
「図星だろ」
沈黙。
「本気出して、失敗するのが一番怖い」
「……うん」
「それやったら、“本当の実力”が確定する」
相談者は笑うが、乾いている。
「だから中途半端で止める。いつでも“本気出せばいける”って余白を残す」
「それ、自尊心の保存だ」
「悪いかよ」
「悪くない。でも代償でかい」
蓮司は淡々と言う。
「壊し続けると、“本気出せばいける自分”が証明されないまま年取る」
相談者の表情が止まる。
「きつ」
「事実だ」
少し長い沈黙。
「期待ってさ」
「何だ」
「信用じゃなくて、プレッシャーにしか感じない」
「お前が自分に完璧要求してるからだ」
「相手じゃなくて?」
「相手は“できそうだから任せる”って言ってるだけ。勝手に“失敗不可”に変換してるのはお前」
相談者は拳を握る。
「じゃあどうすれば壊さなくて済む」
「宣言しろ。“今回は完璧やらない”って」
「は?」
「最初から80点狙いって決めろ。満点狙うな。満点前提にするから怖くなる」
「ダサくない?」
「壊す方がダサい」
刺すように言う。
「自分で壊して“ほらな、やっぱ無理”ってやるの、一番安全で一番ダサい」
相談者は目を伏せる。
「分かってる」
「壊したくなる衝動は消えない。でもその瞬間、“これ自衛だな”って気づけ。気づければ止まる確率上がる」
「止まらなかったら」
「壊せ。でも理由を言え。“怖かったから壊した”って認めろ。他人のせいにするな」
静かになる。
「期待されると壊したくなるやつは」
「何だ」
「本当は期待に応えたい側だ」
相談者は苦く笑う。
「応えたら終わる気がする」
「終わらない。次が来るだけだ」
「それが嫌なんだよ」
「じゃあずっと逃げるか?」
視線がぶつかる。
長い沈黙。
「……今回は逃げない」
「壊したくなったら?」
「80点で出す」
「それでいい」
ドアが閉まる。
期待を壊したい衝動は、
本気を出すのが怖い証拠だ。
壊すのは一瞬。
証明しないまま生きるのは、
ずっと続く。