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#角名倫太郎
紫 憂 .
74
翌日の営業。
昨日のことを引きずるほど、暇じゃない。
店に入れば、考えることは山ほどある。
ドレスに着替えて。
髪を整えて。
鏡の前で笑ってみる。
いつもの顔。
「ナナ、今日も頼むね」
黒服に声をかけられ、
「はい」
いつも通り返事をする。
営業が始まって、一時間ほど。
「ナナ」
黒服が近づいてきた。
「真瀬さん、ご来店」
思わず入口を見る。
早い。
いつもより少しだけ。
「お願いします」
「はい」
席へ向かう。
「こんばんは」
「こんばんは」
真瀬さんは軽く笑った。
「今日は早いですね」
「予定が早く終わって」
「そうだったんですね」
私はグラスを作る。
「昨日はありがとうございました」
「何かあった?」
「会計、待たせちゃったので」
「ああ」
少し考えてから、
「気にしてないよ」
その言い方が、いかにも真瀬さんらしい。
話が途切れる。
沈黙。
私は氷を回した。
カラン、と音が鳴る。
「そういえば」
真瀬さんが口を開く。
「昨日、高槻さんと楽しそうだったね」
手が止まりそうになる。
でも止めない。
「楽しかったですよ」
「そっか」
また静かになる。
否定も肯定もしない。
ただ受け止める。
その距離が、この人らしい。
「真瀬さん」
「ん?」
「気になりますか」
聞いてから、少しだけ後悔した。
踏み込みすぎたかもしれない。
真瀬さんは少し笑う。
「少しだけ」
その一言に、私は返事ができなかった。
営業トークなら、もっと上手に返せる。
でも今は、言葉を探す時間が長すぎる。
そのとき。
入口の方が少しだけ騒がしくなる。
「いらっしゃいませ」
黒服の声。
私は反射的に視線を向ける。
見覚えのある笑顔。
「こんばんはー」
高槻さんだった。
店に入ってきた高槻さんは、私を見つけると軽く手を振る。
私は営業用の笑顔で会釈を返す。
その様子を、真瀬さんは何も言わずに見ていた。
コメント
1件
第43話読み終えたよ〜!✨ 真瀬さんの「少しだけ」気になるって言葉、すごく刺さった…!あの距離感、この人らしさが出ててエモい😭💕 そこにタイミングよく高槻さん登場で、もう次の展開気になりすぎる!!ナナの気持ちどう動くんだろう…続きが待ちきれないよ〜!🌸