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鎖の旋律

9 - 第9話 2人だけの譜面

2025年10月03日

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昴の机の上には、空白の楽譜が広がっていた。 

その白い紙面には、今日から翔のためだけの旋律が生まれる予定だった。


――他人のためではない。翔のためだけの曲。


ペンを握る手に力を込める。

指先から生まれる音符は、誰の目にも触れない。

ただ、翔だけに届くための旋律。


練習室でピアノの前に座る翔を思い浮かべる。

無愛想な顔の奥に、時折見せる弱さ。

その全てを、自分の音で包み込みたい――その思いが、指を震わせる。


「昴……」


声が聞こえた気がした。だが、もちろんここには誰もいない。


――そうだ、音符が翔に届く。心で、呼吸で。


数日後、練習室で翔は譜面を開く。

昴が書き上げた旋律を前に、彼の指先が震える。


「……お前の音が、ないと……俺は、死ぬ」


低く、震えた声で呟くその言葉に、昴は息を飲む。


胸が甘く締め付けられ、同時に恐怖が背筋を走る。


――死ぬ? 俺の音で?


しかしその言葉の裏には、深い依存と信頼があることを、昴は理解した。


ピアノの鍵盤に触れる翔の指先を思い浮かべながら、昴は譜面にさらなる音符を書き込む。

強く、優しく、時に切ない旋律。

全ては翔だけのために。


練習室で二人が向き合うと、空気は濃密になった。

呼吸の一つひとつが互いに重なり、旋律に溶けていく。

翔の瞳がわずかに潤み、指先が鍵盤を押すたびに、昴の心も震える。


「……お前の音、俺の中にある。消えたら、俺はどうなるか分からない」


無防備に吐かれたその言葉に、昴は恐怖と歓喜を同時に味わった。

音で生きる、音で繋がる。

誰にも触れさせたくない、二人だけの世界。


譜面の白紙は、今や二人だけの証となる。

鍵盤に残る指跡、息遣い、視線の交差――全てが旋律に刻まれる。


昴は胸の奥で覚悟を決める。


――この曲は、翔だけのもの。


外界の誘惑も、他人の声も、関係ない。

二人だけの譜面に、二人だけの音が鳴る限り、世界は完璧なのだ。


夜が更けても、練習室には二人だけの旋律が漂う。

甘く、危うく、そして確かに依存の香りを含む音が、無言で二人を包み込んでいた。



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