テラーノベル
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(絶対に、ボクの奥さんは呪われている)
——そう確信していた。 結婚式を挙げてから、トウヤ様達に『違うね!』と言われてしまった今日までの一ヶ月間、すっと。
だって、シュキュウは今まで一貫してボクに冷たかった。他の誰よりも、一番に。顔を合わせれば睨んでくれるし、他の村民達とは普通に会話しているのに、ボクとだけはろくに口も利いてくれない。贈り物は未開封のまま目の前で叩き割り、婚約指輪も直接は受け取ってくれなかった。
(あぁ、シュキュウは他の誰よりもボクが嫌いなんだ)
そう信じて疑わなかった。ずっと、本当にずっと、長い事。でもボクはそんな彼が好きだった。嫌ってくれているからこそ、好きだった。
「——まぁ……もう夫婦での話し合いでしか解決出来ない問題なので、彼が目を覚ましたらしっかり話し合うと良いですよ。私達はもうお暇しますので、あとはご勝手に」
『解呪』の為に来てくれたはずのトウヤ様と一緒に来たルナールさんが、ボクに対し見捨てる様な事を言う。質問に答えたら『シュキュウとの関係改善の手助けにはなる』と言ってくれた言葉を信じて正直に色々話したというのに、最後はこれか。
「え?関係改善の手助けはしてくれないんですか?このまま放置とか、引っ掻き回しただけじゃ⁈」
「嬉しいでしょ?ぐちゃぐちゃにされたうえに、放置されるのも」
ルナールさんがソファーから立ち上がり、ボクに対して冷ややかな目をしてきた。
「……はい、まぁ」
図星を突かれちょっと驚いた。冷ややかな目付きを向けられたり、感情を揺さぶられる過剰行為は、自分でも不思議に思う程何でか楽しいと思ってしまう。でも、出来れば相手はシュキュウであって欲しいのだが、ルナールさんの目付きもなかなかなもので、ちょっとだけ嬉しくなってしまったが……
(これくらいは、浮気では無いよね?)
「では行きましょうか、トウヤ様。あとはもう夫婦の世界ですので、私達は私達で夜を楽しみましょう?」
『ね?』と言う様に、ルナールさんがトウヤ様に向かい軽く小首を傾げる。長身の男がやってるのに不思議と似合っている。それをわかっていてやっている感もあり、『あざといな!』とボクは思ったが、トウヤ様は違ったみたいだ。
「う、うん」
トウヤ様はルナールさんにそう返事をし、少しのやり取りの後、彼等は本当にシュキュウに対して解呪行為をする事なく帰って行った。
(——放置された!)
でも、今回はあまり嬉しく無い。相手がルナールさん達だったからというのも多少はあるが、現状をどう回復していいのか思い付かないからといった方が、今回はいいかもしれない。
「……本当に、『呪い』のせいじゃ無いの?じゃあ……何でボクなんかに、君は急に優しくしてくれる様になったの?」
ソファーに座り、シュキュウの頰をそっと撫でる。『交尾したい』とついド直球で言ってしまったボクの言葉を聞き、ショックを受けたのか、気を失ったまま目覚めない。そんな奥さんが眠っているのをいい事に、綺麗な鱗肌に優しくキスをする。それだけで気分が高揚し、さっき舐めたシュキュウの血の味が口内に蘇った。
(きちんと話し合わないと触れちゃいけない。わかってる。わかってるけど、話し合う余地なんかが今のボク等にあるんだろうか……)
色々考えないとなのに、日頃の睡眠不足が祟って、ソファーに座ったまま、うつらうつらと意識が飛ぶ。——微睡から目覚めると、膝の上に倒しておいていたはずのシュキュウが居なくなっていて、代わりに毛布が体にかかってた。
(まさか、呆れて出て行ったの⁈)
そう思ったボクは慌てて立ち上がり、急いで玄関まで向かったが、いい香りが室内から漂うのを嗅ぎ取って、一度は掴んだ玄関ドアのノブから手を離した。
匂いを辿り、歩いて行く。たどり着いた先はシュキュウの城とも言える台所だった。
「……シュキュウ、ここに居たんだ」と言い、ほっと安堵の息をつく。
「あ、えっと…………ゆ、夕飯の用意を」
ボクの方を見る事なくシュキュウが料理を続ける。そんな事はもう慣れた事だったはずだし、むしろそういう態度が嬉しかったはずなのに……今だけは、何でか心が痛んだ。
「いつもありがとう、シュキュウ」
「…………いえ、これがワタシの仕事ですから」
「夕飯は簡単に済ませて、少し話さない?」
「…………話し?」
目に見えてシュキュウの顔が青くなる。険しい顔つきを一度こちらに向けてくれたが、すぐに逸らされた。ガタガタと手が震え、明らかに怯えている雰囲気だ。
「わ、わかりました。居間で待っていて……もらえますか?」
腕に抱えたボウルの中身を必死に混ぜ合わせながら、シュキュウが言った。
「うん、わかった。サンドイッチとかでもボクはいいからね?」
「…………はい」
そう答えたシュキュウの声は、とても小さかった。
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コメント
1件
クイネの「嫌われてるからこそ好き」って歪んだ片思い、切ないのに妙に納得しちゃった。ルナールさんに冷たくされてちょっと嬉しくなるあたり、この人ほんと柔軟というか…。目覚めたら毛布かけてくれてたシュキュウ、口は堅いけど優しいんだよな。夕飯の支度してる姿に安堵するクイネを見て、ちゃんと向き合えるといいねって思った。揺れる心理描写が丁寧で刺さった!