私は胸にそう誓い
裁判長になった心持ちで一同を見る
神崎隼也
俺達なら、出来るはずです。
私が事態を飲み込めない時
冷静にこの状況を説明し、これからすべき事を提案して、解決策を導いてくれた。初めの殺人が起こった際にも落ち着いて中村を追い、争い事を嫌って収集を行ってくれたりと、陰ながら支える好青年だ
新海拓馬
ちっ。新城の野郎、尻尾はもう掴んでるんだ。
「ミステリ談議会」の頃から他者に対しては少し攻撃的で、相手に遠慮なく発言する。しかし、それはある意味で裏表のない素直な態度で誰にでも平等に接し、私が気絶した際にも一番に駆けつけてくれたと言うし、一日中看病にも徹してくれた
新城綾香
ふふ。終わるのねぇ。
状況を全て冷静に受け止め、瞬時に分析する。そこから得た情報を驚異的な速さで組み立て、正確な結論を出す。心理を見透かし、時には事件解明のための重要な事柄に繋げた。私達に対して、多くのヒントや答えを与えてくれたのは彼女のおかげだ
野嶋隆
……。
野嶋隆
…………よし。
野嶋隆
犯人を、探そうか。
神崎隼也
その為に、事件のおさらいをしませんか?そこから、今分かってる事実を含めて整理していきましょう。
神崎隼也
そうすれば、きっと犯人だって見つけられます!!
野嶋隆
そうだな。
野嶋隆
では、まずは最初の事件から話していこうか。
神崎隼也
橘真、橘理恵……この夫妻が地下室から出たすぐの1階広間で、殺されていたんですよね。
神崎隼也
そこで中村がパニックになって、俺はそれを追いかけた。2階のすぐ近くの部屋に行くと、あの「オマエラノナカニアノフタリヲコロシタ ハンニンガ イル」という文書を発見しました。
この屋敷中を捜索しましたが、犯人は見つからない。監視カメラ・隠しカメラがないことや、全ての脱出経路の厳重な封鎖、これらの条件を含んだ結論として、犯人は俺たちの中にいる、と俺は推理しました。
神崎隼也
そしてその後、新城さんは推理を披露して、事件の解明へと俺たちは乗り出すことになったんです。そうですよね?新城さん。
新城綾香
そうだったわね。私はみんなを食堂に集めて、その文書から犯人の目的を推理したの。
それは、私達が「ミステリ談議会」というチャットに入会しているほどの酔狂なミステリマニアであることから、犯人は私たちに対して、ある種の挑戦状を送ったと考えた。それは、神崎くんの推理とも重複することになるけれど、私達を拘束しなかったことや、手掛かりを残している事からも言えることよ。
新城綾香
それから、私達の個人的なメリットでもあるの。犯人からすれば、自身の正体を当ててもらうことに何か意味を感じているけれど、それは即ち自首ってことにもなる。
犯人を特定できれば、私達は救助が来るまで犯人を拘束するなり何なりして、安全な環境が保たれる。犯人にとっても、私達にとっても事件の解決はいいことよね。
少し考えてみるが
ここまでの事について何か疑問に思うことは見当たりそうになかった
野嶋隆
……そうだ。確かに、今の流れだった。ここまでに、何か気付いたことや、反論したいことがある人はいるかい。
新海拓馬
……特にないな。神崎と新城の推理が土台になって、僕達は今、探偵の真似事をしているようなものだからな。
神崎隼也
そう言えばそうなるのか…。いや、と言うよりは犯人のせいで、だけどな。
野嶋隆
全くその通りだな。
野嶋隆
……さて、じゃあ次に最初の事件の詳細ついて話し合おう。
新城綾香
そうね。確か……
新城綾香
……凶器はナイフで、橘理恵の方は正面から腹部を刺されていた。橘真は橘理恵からは少し離れた場所で背中を複数箇所刺されて死亡。この事から、先に橘理恵が殺されて、それを見た橘真は逃走を図ったことが分かった。
けれど、死体からすぐの場所に血痕が残っていたのよね。この位置関係から、橘真の死体を橘理恵のすぐ隣まで引きずっていたということが分かったんだったわね。
新海拓馬
そして僕が見つけたあの花……白ユリだったな。それは献花としてよく使われる花で、死者を弔うために置かれていたと考えるのが妥当だと結論付けられたんだ。
野嶋隆
そうだ。献花と橘真の死体をわざわざ橘理恵の隣に並べてやった。この事から、犯人は橘家に深く関与している者であると考えられた。
新海拓馬
で、それならこの屋敷中をくまなく調査していけば、何か情報が掴めるかもしれないってことになったんだ。言っておくけど、これは僕の推理のおかげだからね。
神崎隼也
……こんな時まで何言ってんだか。
新海拓馬
うるせえよ。バカンザキ。
野嶋隆
こら、こんな時にやめなさい。続きを話そうじゃないか……
野嶋隆
……そして、私と新海くんは書斎で新城さんの「心は紡がれている」という本を発見した。新城さんと神崎くんは何も見つけられなかったが、新城さんは中村くんとの密会を怪しんで、橘真衣を詰問し、結果的に、橘真衣は白状した。
そこで例の写真を受け取り、橘真衣が犯人であることは、本人の自白も加わって確実かと思われた。
神崎隼也
その前に、橘真衣と中村は自室で話し合っていたんですよね。一足早く、橘真衣から中村が事件の真相を聞かされる。
その際に、橘真衣は同時に、自身の心境を少し明かした。そこからこぼれた証言によると、橘真衣は「牢屋に入る」つもりだった……ですよね、野嶋さん?
野嶋隆
そうだ。確かに、中村くんはそう言っていた。
新城綾香
ちょっと良いかしら?
野嶋隆
どうしたんだい。新城さん。
新城綾香
その書斎で私の本があったと言うことだけれど、それは確実に作為的なものよねぇ。多分、野嶋さんは偶然見つけたように思っているけれど、割と目立つように置かれていたと思うの。
それが作為的なものであることの根拠は、後に雨音ちゃんと新海くんの、地方新聞に載ってる記事のスクラップが置かれていた事からも、確実に犯人が残したものよ。そのせいで、私は思想上の問題で疑われるハメになったのよ。
野嶋隆
……いや、その件は本当にすまなかった。
それに並行して思い出したんだが、情報を先行して言うと、私達全員が同県内……X県に住所があることがそこから判明し、やはり犯人は「ミステリ談議会」にチャットメンバーを集めていた時から、作為的にこの事件と関与して選んでいたことが分かる。
新海拓馬
到底信じられねぇが、じいさんの推理では、僕達には記憶操作ないし、心理操作が行われたって言うんだろ?
野嶋隆
ああそうだ。それは「ミステリ談議会」に入る経緯や、そもそもこの橘邸の地下室に来るまでの直前の記憶のみが、私達全員から抜け落ちている事……それは、事件の節々に陰謀めいた手掛かりが残されている事からも、確実であると判断した。
神崎隼也
……はぁ。今でも信じたくはないですけど、それしか無いんですよね。
新海拓馬
で、結局うやむやになったけどよ、それができる単独犯は新城綾香、お前だけってことになったんだよな?なら、僕か新城綾香、その女が犯人なんだとするなら新城しかいないだろ!!
新城綾香
その根拠は「心理は紡がれている」の記述によるものでしかなく、観念上の状況証拠でしかないと言ったのは、貴方でもあるのよ?自分の立場が危うくなったら、途端に意見を変えるなんて、随分と都合がいいとは思わない?
新海拓馬
く、くそ。け、けどよ。それは本当にお前しかあり得ないだろ。
新城綾香
そうかしら。あまり死者を冒涜するようなことは言いたく無いけれど、例えば、雨音ちゃんだって隠れた才能というものがあったわ。その才能はとてつもない力を持っていたこと、それはもう証明されているわよね。
なら、私たちの中に、まだ隠れた才能を持った人物がいたとして、不自然なんかないじゃない?
新海拓馬
う、うーん。それは、だな。
神崎隼也
……待ってください。その話よりもまず、時系列を追って第二の殺人が起こった際のことを考えてみませんか?
野嶋隆
それが良い。二人とも、言いたいことは山ほどあるんだろうが、今は考える為に情報の整理に集中してみようじゃないか。
新海拓馬
……ちっ。まぁ別に良いさ。じいさん、続けろよ。
野嶋隆
ああ。確か、橘真衣こそが犯人なのだと皆が結論づけた後の話になるんだな……残念ながらその夜、橘くんは何者かによって23時に、凶器はナイフによるもので殺害された。
橘くんは半身を起こした状態で、特に抵抗した様子もない事から、何者かが侵入するのに気付いたところで殺されたものだと思われる。そして犯人はそこで扉を開閉する音まで中村くんに聞かれている。しかし4時頃、再びその扉を開ける音がする。犯人は死後硬直を利用して、ナイフを掴ませるように死体の指を固定した。それからドアスコープを利用した、サムターン回しという手法によって密室を作り上げた。
神崎隼也
……野嶋さんはどちらの時間に何が行われたのか分からないから省いたんだと思いますが、犯人は他に、憎々しくも俺たちの唯一の連絡手段であるスマホの破壊、それに「マーダーゲーム ハ オワラナイ」というまた謎の文書を残した……ここまでが、第二の殺人で起こった直後の出来事ですね。
野嶋隆
その通りだ。
野嶋隆
そして、新海くんの様子がおかしいので私は新海くんを追って書斎へ向かった。そこで、例のスクラップを発見した。この事から、先に述べた心理操作の推理に繋がったんだ。
神崎隼也
俺の方は、中村が錯乱していたので急いで追いましたね。でも中村は、思いの外早く立ち直っていて、「事件解決のために戻ろう」なんて……追いかけてきた俺に言ったくらいですからね。
野嶋隆
中村くん……。
神崎隼也
…本当に、惜しい人を失いました。
新城綾香
いつまでも感傷に浸るのはいけないわよ。今は推理を……でもねぇ……
新城綾香
……うーん。ここに来て謎が多いわよねぇ。
新海拓馬
……じいさん、あのことは言わないのか?
神崎隼也
あのこと?
この時ばかりは
武力に頼ってでも青年を
必死に制止したいと思った
野嶋隆
……よしてくれないか。別に私は、自分の存在を知らしめたいわけではないんだよ、新海くん。
新城綾香
隠し事はなし、よね?
野嶋隆
………………うっ。
新海拓馬
だ、そうだから、口に出した以上は言わないとな。じいさん?
野嶋隆
……。
野嶋隆
………私が書斎に駆けつけた時、新海くんは手に本を持っていた。興味本位から何を持っているのかと聞いてみれば、高島詩乃と言う推理作家の「慧眼の死者」と言う本を持っていたんだ。
野嶋隆
……知っているかね?
神崎隼也
もちろんですよ。高島詩乃というと、ミステリ界の超大物……巨匠じゃないですか!!
新城綾香
ええ。私も知っているわ。彼の描く探偵…ジャーロック・ポームズはとても頭脳明晰でカッコいいわ。
新海拓馬
分かる分かる。ヒーローなんだよ、ジャーロック・ポームズは。ねぇ?
野嶋隆
……くっ、新海くんめ。
ここにきて
こんな恥ずかしいことがあるとは思わなかった
私は青年を恨みがましく見つめ
渋々、素性を明かした
野嶋隆
……ということなんだよ。
神崎隼也
そ、そんな!!!!
まさか、高島詩乃さん御本人がこの場にいるなんて!!!!
神崎隼也
あ、握手して下さい!!
新城綾香
私もサインをもらって良いかしら?
新海拓馬
僕も、あの時は混乱していてよく分からなかったが、これは凄いことだなぁ。じいさん、いや、高島詩乃さん。是非ともこの場で、サイン会を開催しようじゃないか。
野嶋隆
……………君たち、今がどんな状況か分かっているのか?
神崎隼也
あ、そ、そうですね。
すみません。
神崎隼也
……えーと、詩乃さん……じゃなくて、野嶋さん、それで次は何を話しましょうか?
野嶋隆
それは、いつも君が提案してくれていたんだが……まあいい。
野嶋隆
……とにかく、私達がそうこうしている内に、先に到着した神崎くんと中村くん、それに加わった新城さん達は、主に中村くんのおかげで空き巣がよく使う手口、サムターン錠という鍵を利用して開ける「サムターン回し」という手法が使われたのではないかと推理した。
その方法は多岐にわたるが、ドアスコープが少しだけ前に出っ張っている事実からその方法に帰着し、密室の謎は解けた。
新城綾香
彼女の推理力は素晴らしかったわねぇ。その後、何食わぬ顔で橘真衣さんの形見である化粧道具を持って、健気なことを言うんだから、大した子よね。
神崎隼也
そうでしたね。確か、あの化粧道具も部屋に置いてありましたね……。
野嶋隆
ああ。そうだな。そんな彼女がその後……死体の様子から見て、死後5時間は経っていたようだから深夜に、食堂で麻縄を使って締め殺された勘定になる。
そして彼女は、ポケットに入れた手鏡の中に紙を貼り付け、最後に私達に「犯人の利き手の方にこの手鏡を入れておきます!! 手鏡は大人の女性を表す、ですよ!!」というダイイングメッセージをしっかりと手で掴み、遺した。
これは、彼女の自室から出てきた各人の正確な利き手を判別した紙が出てきたことからも、右利きの者が犯人であると結論された。しかし私にはアリバイがあり、神崎くんは左手なので、残る2人、新海くんか新城さんのどちらかが犯人だと言うことになる。
野嶋隆
……ここまでが、これまでの事件の概要ということだな。
神崎隼也
うーん。まとめてみても、犯人を掴むための証拠や手掛かりというものは、一体どれなのか見当もつきません。
野嶋隆
それを掴むためにも、ここまでにある謎を、私たちでいま解き明かしてみないか。
神崎隼也
そうですね。謎……これを分かりやすく、類別してみませんか。
新海拓馬
ふん。分類したところで、多すぎてわからないね。
新城綾香
ふふ。諦めが早いのねぇ。
新海拓馬
ちっ。てめえが犯人のはずなのになぁ………。
野嶋隆
……謎。
この事件と以降の事件
何か共通項、あるいは矛盾がないか
2つ目の事件にしても
殺したと一目でわかるあの文面
そして証言と真っ向から食い違うスマートフォンの破壊
中村雨音の殺害理由
絞殺の理由
ダイイングメッセージ
利き手
自殺に見せかける
中村雨音の殺害理由
絞殺の理由
ダイイングメッセージ
利き手
密室
スマホの破壊
殺人だと断定できる……できた文面
野嶋隆
そ……。
新海拓馬
じいさん?
野嶋隆
そ……。
神崎隼也
……野嶋さん?
野嶋隆
……………………。
それで論理が確立するならば
理論が構築されるならば
野嶋隆
は。
新海拓馬
……「し」だか「そ」だか、「は」だか意味わからない事ばかり発声するなよじいさん。あんたは喃語が共通言語の国にでも住んでるのか?
野嶋隆
……犯人。
神崎隼也
犯人?
野嶋隆
"犯人が分かったんだよ!!!!!"
神崎隼也
……………………。
新海拓馬
……………………。
新城綾香
……………………。
私の咄嗟の言葉に
誰一人意味を理解できていないようだった
意味を解さないまま
とりあえず発声したのか
新海が言った
新海拓馬
……………………は?
野嶋隆
もう一度言う。"犯人が分かったんだ"
今までで最高にいいリアクションを
新海はしてくれた
新海拓馬
は、はああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああ!?
神崎隼也
ほ、本当ですか野嶋さん!!
だとすれば、この二人の…。
野嶋隆
ああ。はっきりと、今紡がれたよ。
新城綾香
ふふ。紡がれた……か。
新城綾香
……そのデザインは歪かしら?
野嶋隆
歪と言えば歪だ。だが、シンプルと言えばシンプルだ。
新海拓馬
お、お、お、お、教えろ!!
新海拓馬
いま、すぐに!!!!
野嶋隆
良いだろう。私の推理の結果、犯人は弾き出された。今ここで、4人をも殺した犯人を……
野嶋隆
"弾劾する"
野嶋隆
そして、この事件には……
それはそうだ
大きな画を描いて、輪郭すら掴ませぬ気でいたのだ
"第二の殺人が起こった時点で"
もう真実は浮かんでいた
野嶋隆
"犯人が二人存在する"