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ハチ
56
映像は、嘘をつかないはずだった。 警備室。 薄暗いモニターの前で、刑事は腕を組んでいる。
警備員
再生ボタンが押される。 教室。 時間は17時12分。 数人の生徒が残っている。 笑っている。喋っている。 いつも通り。 ただ一つだけ、違う。 窓際の席。 そこに、柊がいる。 俯いたまま、動かない。
刑事
警備員
刑事
警備員
刑事は黙って見続ける。 三浦が立ち上がる。 ペットボトルを持っている。歩く。 柊の席の横を通る。 そのとき。何かを“踏む”。 小さく、足元が沈む。 三浦は一瞬だけ止まる。 そして。そのまま、足を押し付ける。 ゆっくりと。何度も。 まるで、そこに“何かある”と分かっているみたいに。
刑事
映像が止まる。
刑事
警備員
刑事
警備員
刑事
刑事
映像が動く。 三浦は何事もなかったように去る。 柊は、動かない。 ただ、肩が少しだけ揺れている。 次。斎藤が近づく。
後ろから。 何気ない動作で。 机に手をつく。 体重をかける。 その手は―― 柊の頭の位置にある。 押さえつけるように。 ゆっくりと、下に。 斎藤の口が動く。笑っている。 だが音はない。 柊の肩が、強く震える。 それでも。誰も、見ない。 誰も、止めない。
刑事
拳を握る。
刑事
警備員
刑事
映像が止まる。
刑事
警備員は答えない。目を逸らす。
刑事
警備員
刑事
警備員
刑事は深く息を吐く。
刑事
映像が再開される。 時間は進む。 17時18分。 小林が、柊の机に近づく。 紙を一枚、置く。机の上。 柊の目の前。 紙には何か書かれている。 カメラでは読めない。 小林は、軽く机を叩く。 一回。二回。 反応を確かめるみたいに。 柊は、動かない。 小林は笑って、去る。
刑事
警備員
刑事
17時23分。 三浦と斎藤が教室を出る。 扉が閉まる。 教室に、柊一人。 柊の体が、ゆっくりと横に崩れる。 床に落ちる。音はない。 画面は、静かだ。 17時31分。 ノイズ。一瞬、画面が乱れる。 次の瞬間。 床には、何もない。 机も椅子も、そのまま。 ただ、“いない”。
刑事
繰り返す。 何度も。何度見ても、同じだ。 “いた”はずのものが、消えている。
事情聴取。 三浦は、淡々としている。
刑事
三浦
刑事
三浦
即答。迷いなし。
刑事
三浦
刑事
三浦
目を逸らさない。 斎藤。
刑事
斎藤
刑事
斎藤
刑事
斎藤
刑事
斎藤
即答。 小林。
刑事
小林
刑事
小林
刑事
小林
刑事
小林
刑事
小林
刑事
小林
一瞬だけ、詰まる。 すぐに目を逸らす。
小林
全員が同じことを言う。 見ていない。 触れていない。 何もしていない。 証言は、完全に一致している。
夜。 刑事は一人、映像を見返す。 止める。巻き戻す。繰り返す。 柊は、確かにそこにいる。 踏まれている。 押さえつけられている。 無視されている。 それでも。 記録上は、“何もされていない”。
刑事
そのとき。 画面の中の柊が、動く。 顔を上げる。ゆっくりと。 カメラの方を見る。 刑事の視線と、合う。 そして。口が動く。 はっきりと。読める。
柊
刑事の背筋が凍る。
刑事
巻き戻す。同じ場面。 今度は、動かない。
刑事
翌日。教室。
担任
欠席者なし。 小林が席に座る。 ふと、足元に違和感。柔らかい。
小林
足をどける。何もない。 もう一度、置く。沈む。 確かに、“踏んでいる”。
小林
笑おうとするが、声が震える。 そのとき。机の上に、紙が一枚。 昨日、自分が置いた場所。 小林の顔が固まる。 ゆっくりと、見る。 書かれている。
『読めてるよね』
小林
耳元。
柊
足首を、何かが掴む。 冷たい。逃げられない。
小林
柊
昨日の言葉。そのまま返ってくる。
小林
教室は、いつも通り。 誰も見ていない。 誰も気づかない。 ゆっくりと。 小林の足が、沈む。膝。腰。 椅子に座ったまま。床の中へ。
小林
声は届かない。
柊
すぐ近くで。
柊
小林の体が、完全に消える。
担任
誰も違和感を持たない。 机は、すべて埋まっている。 欠席者は、いない。