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木津からの連絡は、簡潔だった。
〈正式処理、完了した〉
〈協力、感謝する〉
それだけ。
真琴はスマートフォンを伏せ、探偵社の中を見回した。
いつもと変わらない光景。
資料を整理する玲、窓際でぼんやり外を眺める澪、ソファで足を組む燈。
「……終わったね」
「終わったな」
燈は気のない返事をする。
「警察も納得、俺らも異論なし。
綺麗な幕引き」
「“綺麗”って言葉、今回は使わないで」
玲が淡々と釘を刺す。
「妥当、が正確」
「はいはい」
燈は肩をすくめた。
そのとき、再びドアがノックされた。
「……はーい?」
真琴が立ち上がると、外に立っていたのは木津だった。
今度はスーツではなく、少し古びたジャケット姿。
「……何か忘れ物?」
「いや」
木津は頭を掻く。
「一件、終わったから」
それだけ言って、紙袋を差し出した。
中身は、近所の菓子店の箱だった。
「差し入れ?」
「形式ばった礼は、やりづらい」
燈が鼻で笑う。
「警察のくせに、妙に律儀だな」
「現場の癖だよ」
木津は即答した。
「借りを作ったままにするの、落ち着かなくてな」
真琴は受け取り、小さく笑った。
「ありがとうございます。
でも、そこまでしなくても」
「いや」
木津は首を振る。
「今回は、助かった」
その言葉は軽くなかった。
玲が視線を上げる。
「正式には、警察だけで完結した事件です」
「それでもだ」
木津ははっきり言った。
「俺一人で判断してたら、
もう少し雑に片付けてた」
一瞬、室内が静まる。
「雑?」
澪が首を傾げる。
「早く終わらせる、って意味だ」
木津は言葉を選ばず続けた。
「事故として処理することに、迷いはなかった。
でも、確認を怠る理由もなかった」
燈が目を細める。
「警察って、そんなに余裕ないのかよ」
「ないな」
即答だった。
「だからこそ、ちゃんと確認したかった」
真琴は、その言葉を噛みしめる。
万能ではない。
けれど、投げてもいない。
「……木津さんらしいね」
「そうか?」
「ええ」
真琴は笑う。
「へっぽこだけど」
「だからその呼び方は――」
言いかけて、木津は諦めたように息を吐いた。
「まあ、いい」
それから、ふと思い出したように付け足す。
「一応言っとくが、この件でお前たちに不利なことは起きない。
記録も、きちんと残る」
玲が頷く。
「それは、重要です」
「だろ」
木津は少しだけ、安心したような顔をした。
用はそれだけだったのか、彼は長居をしなかった。
ドアの前で立ち止まり、振り返る。
「……真琴」
「はい?」
「今回は、これで終わりだ」
念を押すような口調だった。
「深入りしなくていい」
真琴は、一拍置いてから答える。
「分かってます」
木津は頷き、今度こそ去っていった。
ドアが閉まったあと。
「いい警察官だな」
燈がぽつりと言う。
「不器用だけど」
澪が同意する。
「嘘はつかない人です」
玲は資料を片付けながら言った。
「だからこそ、組織向きではない」
真琴は、差し入れの箱を見つめていた。
「……今回は、ちゃんと終わりました」
誰に言うでもなく。
事件は解決した。
警察も探偵も、役割を果たした。
それでも。
木津の「念押し」だけが、
ほんのわずかに、胸に引っかかっていた。
こうして、何事もなく幕を閉じた。
――少なくとも、表向きには。