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遥の相談室3

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遥の相談室3

15 - 第15話 平気な顔が、いちばん疲れる

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2026年02月17日

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教室の電気はついていない。

窓の外の明るさだけで、机の輪郭が見える。


生徒は座るなり、

「大丈夫です」と言った。

まだ何も聞いていないのに。


遥は反応しない。


「平気なんです。別に。嫌なこととか、そんなにないし」


早口でもない。

でも、止まらない。


「友だちもいるし。家も普通だし。困ってることって、言われると……」


言葉が途切れる。


「……ないです」

遥は、机の上に視線を落としたまま聞く。


「でも?」


生徒は、すぐに返せない。

沈黙。


「でも、ずっと気を張ってる感じがして」


小さく出た。


「何が起きても、“平気”って顔してると、そのままになるんです」


指先が机を軽く叩く。

無意識のリズム。


「しんどくても、大丈夫って言うし。嫌でも、平気って言うし」


一拍。


「気づいたら、本当に分かんなくなって」


声が少しだけ低くなる。


「どこまでが平気で、どこからが無理なのか」


遥は、ゆっくり息を吐く。


「平気な顔、便利だからな」


生徒は顔を上げる。


「はい」


即答だった。


「崩れないやつは、崩れない扱いされる」


静か。


「一回も崩してないなら、周りは更新しない」


生徒は黙る。


「でも、崩し方が分からないです」


素直だった。


「いきなり泣くとか、無理だし。怒るのも、違うし」


遥は少し考える。


「崩さなくていい」


生徒が目を瞬く。


「“平気じゃない部分”だけ、出せ」

「部分……」

「全部じゃなくていい」


遥は続ける。


「10あるうちの、1だけ」


机の端を指でなぞる。


「“ちょっと疲れてる”とか。“今日は静かにしてたい”とか」


一拍。


「平気のままでも、混ぜられる」


生徒は、長く息を吐いた。


「……それなら、できるかもしれない」

「一回でいい」


遥は言う。


「平気100のやつが、平気90になるだけで」


少し間。


「周りは気づく」


生徒は立ち上がる。

椅子の脚が小さく鳴る。


「……平気な顔って、やめなくていいんですね」

「全部はな」


遥は短く答える。


「でも、貼りつけっぱなしだと、顔の方が本物になる」


生徒は苦笑した。

扉の前で止まる。


「……1だけ出してみます」


遥は頷かない。


「そうか」


扉が閉まる。


教室に残るのは、

まだ落ちきらない光と、

使われていない椅子。


遥は、しばらく動かない。

“平気”という言葉だけが、

静かに残っていた。

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